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馬の骨でも考える/Even a Nobody Thinks…

構造分析(3) 剰余の出現 — Part 2:剰余の源泉

Posted on 2025-06-272025-06-27

本稿の構成

以下の流れで展開します。

1.はじめに:剰余は貨幣を求める
2.単体フローサイクル分析――剰余の源泉を探る

 2.1 単体フローサイクル内の展開構造(一次完結型/二次展開型)
 2.2
単体フローサイクル内の展開型分類

  (1)単体ストック変動:投入なし(労働力不在)/PSA回収
  (2)消費フロー:PSA投入/労働力回収
  (3)事業フロー:三要素投入/ PSA 回収
  (4)事業フロー:三要素投入/貨幣回収
   まとめ:剰余要素別の展開型分類
 2.3 一次完結型の剰余生成
   2.3.1 一次完結型の各類型の深堀り
   2.3.2 結論:一次完結型における剰余生成の基本構造
 2.4 二次展開型の剰余生成
 2.5 まとめ
――剰余の源泉

3.結論――剰余の源泉・3類型

本稿は、「構造分析(3)剰余の出現」の後編にあたります。
前編 [構造分析(3)剰余の出現 ―― Part-1 剰余の生成] では、8つの資産変動類型を分析し、そのうち剰余が発生するのは「単体フローサイクル」に限られる、という結論に至りました。さらに、その内部における消費フローと事業フローの相互循環こそが、剰余発生を支える構造的な土台となっていることを確認しました。

本稿では、そこからもう一歩踏み込み、剰余の源泉(source)とは何かを掘り下げていきます。すなわち、剰余が生まれるための構造的な条件・構成要素・プロセスを明らかにすることが、本稿の目的です。


1.はじめに:剰余は貨幣を求める

前編では、剰余が発生するのは「単体フローサイクル」に限られることを確認しました。そこでは、以下のような典型的なケースを提示しました。

・消費フローにおいて、PSA(食料など)を消費することで労働力を回復するケース
・事業フローにおいて、労働力を投入してPSA(漁獲物や製品など)を得るケース
(※ PSA = Pure Stock Assets (純粋ストック資産)

しかし、ここでひとつ根本的な問いが浮かびます。
「投入量よりも回収量が多い」とは、どうすれば判断できるのでしょうか?

たとえば、朝に朝食を摂ったあと、午後には体力が回復していると感じたとします。その「より強くなった」という感覚は、どのような基準に基づいて「多い」と判断されているのでしょうか。
あるいは、漁師が「今日の漁獲は、かけた労力に見合って十分だ」と感じるとき、どのような比較が行われているのでしょうか?

ここで必要となるのが、質的に異なるもの同士を比較可能にする、共通の基準です。すなわち、それが「貨幣」です。

私たちが「剰余」という言葉を用いるとき、そこには必ず「余剰」「超過」といった定量的な意味合いが含まれています。
しかし、こうした「超過」は、数量的な比較が行われて初めて明示的に認識されるものです。
そして、その比較のために最も広く使われる手段が、貨幣による評価なのです。

たとえば以下のような比較が行われます:

  • 消費フロー: PSA(食料) < 労働力(回復した体力)
  • 事業フロー: 労働力投入 < PSA(漁獲や製品など)

これらにおいて、どちらが「大きいのか」を判断するには、労働力とPSAの双方を同じ尺度=貨幣に換算する必要があります。
言い換えれば、「剰余が生まれた」と言うためには、投入と回収がいずれも貨幣によって定量化可能であることが前提なのです。

このように、剰余とは自然発生的な現象ではなく、貨幣機能によって計測され、BSに記録されることで初めて認識される構造的な成果です。
すなわち、剰余は、異なる価値の比較を可能にする貨幣機能によってこそ、明示的に捉えられるのです。

貨幣の三機能と剰余

ここで、古典的に定義される貨幣の三つの機能が重要になってきます:

  1. 交換手段(Medium of Exchange)
  2. 価値尺度(Unit of Account)
  3. 価値保存手段(Store of Value)

このうち、剰余の認識に本質的に必要なのは、第二の機能=価値尺度(Unit of Account)です。
この機能によって、労働力と食料、あるいは労働力と製品といった性質の異なる資産
が、貨幣という共通の物差しによって比較可能になるのです。

さらに、「BS三層フレーム」においては、すべての資産が最終的に貨幣で評価されて記録される構造になっています。
非貨幣資産であっても、「投入を上回る回収」という概念が成り立つのは、それらを貨幣に換算したときに限られます。
この意味で、剰余という概念自体が、貨幣評価を前提とする枠組みの中でしか成立しないのです。

ゆえに、「剰余は貨幣を求める」とは、まさに構造的な必然なのです。

もちろん、非貨幣資産の貨幣評価は、常に価格変動という不安定性を伴います。
同じ取引であっても、評価のタイミングによっては「今日の剰余」が「明日の損失」となることもあるのです。

この問題については、今後の論稿で「貨幣とは何か」を掘り下げる中で、より詳しく考察していきます。

まずはこの前提に立ち、次章では「剰余はどこから生まれ、その源泉は何なのか?」という問いを、単体フローサイクル内部の構造分析を通じて明らかにしていきます。


2.単体フローサイクル分析――剰余の源泉を探る

前章では、剰余を生み出しうる資産変動の類型として、単体フローサイクル(SCF:Self-Contained Flow Cycles) のみを特別な位置づけとする整理を行いました。
本章では、その単体フローサイクルの内部構造により深く踏み込み、剰余が実際にどこで生まれ、何がその具体的な源泉となるのか を明らかにしていきます。


剰余とは、投入された価値を、回収された価値が上回ったとき に発生します。
ここでいう価値とは、貨幣または貨幣換算によって評価された資産を意味します。

つまり、投入と回収に用いられた資産が性質的に異なっていたとしても、両者を貨幣という共通の基準に換算して比較できるならば、そこに「超過回収」としての剰余を見出すことが可能なのです。


では、そのような「投入」と「回収」は、単体フローサイクルの内部でどのように起こっているのでしょうか?

次節では、これを構造的に分析するために、

  • 一次完結型(他者との関係を伴わず、自己完結的に行われる資産変動)
  • 二次展開型(外部との相対関係を含む資産変動)
    という二つの類型に整理し、それぞれの特徴と意味を明らかにしていきます。

2.1 単体フローサイクル内の展開構造(一次完結型/二次展開型)

単体フローサイクルといえども、その内部構造は一様ではありません。
投入と回収に関わる要素――労働力(LBR)、純粋ストック資産(PSA)、貨幣(MNY)――の組み合わせや、フローの種類――消費フロー(Consumption Flow)と事業フロー(Operational Flow)――によって、さまざまなバリエーションが生まれます。

こうした多様な型を整理するために、以下の分類が不可欠となります。

一次完結型(Primary Development Type)
 投入と回収が、すべて単体フローサイクル(SCF)内部で完結しているタイプ。

二次展開型(Secondary Development Type)
 一次完結型で投入された資産が、その後外部に対して展開され、その成果が最終的に一次フローに回収されるタイプ。

この視点から見ると、表面的には自己完結的に見える行為であっても、実際には二次的な取引構造――すなわち、他者とのフローサイクルやストック変動――を含んでいることがあります。

たとえば、製造業において原材料を外部から仕入れるような場合、その調達プロセスは明らかに外部との交換を伴う二次的構造にあたります。

(一次完結型のイメージ図)

※ Assets(資産), Value(価値・成果), Flow Out(フロー投入), Flow Back(フロー回収), Processing(変換), Self-Contained Flow(単体フロー), Primary Layer(一次展開), Surplus(剰余)

(二次展開型のイメージ図)

※ Exchange(交換), Lending Flow(貸借フロー), Investment Flow(投資フロー), Secondary Layer(二次展開)

次節以降では、単体フローサイクルに含まれる代表的なパターンを取り上げ、それぞれが一次完結型か二次展開型かを分類した上で、どのような構造で剰余が発生するのかを分析していきます。


2.2 単体フローサイクル内の展開型分類

前節で確認した通り、単体フローサイクル(SCF)は、投入と回収がSCF内で完結する「一次完結型」と、外部との関係を含む「二次展開型」に分かれます。

本節では、これまでに見てきた各フロー類型を、この一次/二次のいずれかに分類して整理します。


(1) 単体ストック変動 : 投入なし(労働力不在)/PSA回収

例:木の実や果物を拾う
分類:一次完結型

(イメージ図)

これは最も原初的な資産変動のかたちです。投入ゼロで、自然から直接獲得したPSAがそのまま資産に加わるものであり、最も単純な「単体対生成(Single-Entity Co-Generation)」による資産創出であり、完全に自己完結的です。


(2) 消費フロー : PSA投入/労働力回収

例:食事による体力・精神力の回復
分類:一次完結型

(イメージ図)

※ Primary Layer Only (一完展開限り)

この類型では、PSA(例:食料)を投入し、労働力を回復します。投入と回収が質的に異なる(PSA ↔ 労働力)ため、剰余認識には貨幣換算が必要ですが、フロー構造自体は完全に自己完結的です。


(3) 事業フロー : 三要素投入/ PSA 回収

(3-a-1) 労働力投入/PSA回収(自然からの取得)
例:狩猟、漁労
分類:一次完結型

(イメージ図)

※ Harvesting (自然採取)

労働を自然に投入してPSAを獲得します。労働力の投入がある点で(1)とは異なりますが、他者との関与がないため、構造は完全に自己完結的です。


(3-a-2) 労働力投入/PSA回収(知的創造)
例:小説執筆、建築設計、道具の発明
分類:一次完結型

(イメージ図)

※ Creating (創造)、Intellectual Labor (知的労働)、Intangible PSA (無形資産)

知的労働によって知識・芸術・設計などの無形PSAを創出します。他者資源に依存せず、自己の内部能力によって自己完結する構造です。


(3-b-1) 労働力投入/PSA回収・変容
例:自ら伐採した木材を使って家具を製作
分類:一次完結型

(3-b-2) 労働力・PSA投入/PSA変容
例:既に保有していた木材を使って家具を製作
分類:一次完結型

(イメージ図:3-b-1)

どちらも、労働を通じてPSAを新たな形に変容させる構造です。投入されたPSAが工程中に獲得されたものであれ事前に保有していたものであれ、外部との関係を伴わないため、自己完結型に分類されます。


(3-c-1) 労働力・貨幣投入/PSA回収(貸借フロー経由)
例:外部から借りた機械を使って製造
分類:二次展開型(貸借フロー)

(イメージ図)

※ Lending Flow(貸借フロー)、Primary Layer(一次展開)、Second Layer Expanded(二次展開)
※ 実際の生産には素材(PSA)も必要ですが、ここでは二次展開構造の説明に焦点を当てています。

この場合、一次展開で投入された貨幣が外部との貸借フローに二次展開され、その結果得られた資産が一次展開内部に戻り、処理されます。ゆえに、外部との貸借関係を含む二次展開型に分類されます。


(3-c-2) 労働力・貨幣投入/PSA回収(交換経由)
例:外部から原材料を購入して製造
分類:二次展開型(交換)

(イメージ図)

※ Exchange (交換)

一次展開で投入された貨幣が、外部の原材料供給者との交換(購買)を通じて原材料を取得するために使われます。取得された原材料は一次展開内部で加工されますが、外部との交換関係を含むため、二次展開型に分類されます。


(4) 事業フロー : 三要素投入/貨幣回収

(4-a) 労働力投入/貨幣回収(交換経由)
例:賃金労働
分類:二次展開型(交換)

(イメージ図)

※ Wage Payment (賃金支払い)

一次展開で投入された労働力を外部の雇用主との交換関係に展開、つまり雇用主に労働力を提供することで貨幣が回収されます。これは典型的な外部との交換関係であり、二次展開型に分類されます。


(4-b-1) 労働力・PSA投入/貨幣回収(交換経由)
例:製品製造と販売
分類:二次展開型(交換)

(イメージ図)

※ Production (加工・生産)、Sales Proceeds (売上)

労働力とPSAを一次展開に投入し、まず労働力によってPSAを加工・変容させ、新たに生成された製品(新PSA)を外部の顧客に販売(=交換)します。販売を通じて貨幣を回収する構造のため、交換関係を含む二次展開型に分類されます。


(4-b-2) 労働力・PSA投入/貨幣回収(投資フロー経由)
例:現物出資に基づく配当収入
分類:二次展開型(投資フロー)

(イメージ図)

※ Investment Flow (投資フロー)、Investment (投資活動)、Invested PSA (現物出資された資産)、Investment Proceeds (投資収入)、Pay Dividend (配当支払い)、Investee (投資先)

一次展開に投入されたPSAが外部の投資先との投資フローに二次展開され、そこから貨幣が回収される構造です。よって、二次展開型に分類されます。


(4-c-1) 労働力・貨幣投入/貨幣回収(貸借フロー経由)
例:貸金業
分類:二次展開型(貸借フロー)

(イメージ図)

※ Lend (貸与)、Repayment (返済)、Lending Operation (貸金業運営)、Lending Proceeds (貸与収入)、Lending & Return (貸与と回収)、Borrower (借主)

一次展開に投入された貨幣が外部の借主との貸借フローに二次展開(=貸与)され、そこから貨幣が回収される構造です。よって、二次展開型に分類されます。


(4-c-2) 労働力・貨幣投入/貨幣回収(投資フロー経由)
例:投資会社の運用
分類:二次展開型(投資フロー)

(イメージ図)

※ Invested MNY (出資金)、Proceeds(MNY) (投資回収金)、Investment Activity (投資活動)、Investment Proceeds(投資収益)、Investment Operation (投資事業運営)

一次展開に投入された貨幣が外部の投資先との投資フローに二次展開(=投資・出資)され、そこから貨幣が回収される構造です。よって、二次展開型に分類されます。


まとめ:剰余要素別の展開型分類

・労働力:消費フロー    →  一次完結型
・PSA  :単体ストック変動 →  一次完結型
・PSA  :事業フロー    →  一次完結型または二次展開型
・貨幣 :事業フロー    →  二次展開型


次節では、これらの各展開型において、どのように剰余が実際に生成されるのかを検討していきます。


2.3 一次完結型の剰余生成

前節では、単体フローサイクル内に含まれる資産変動の類型を、一次完結型と二次展開型に分類しました。

本節では、一次完結型に焦点を絞り、それぞれの類型の内部で剰余がいかにして生まれるかを分析し、その構造的パターンと源泉を明らかにします。


2.3.1 一次完結型の各類型の深堀り

ここでは、一次完結型に分類された各資産変動類型について、剰余の生成メカニズムを詳しく観察し、その構造的特性を明らかにしていきます。


(1) 単体ストック変動 : 投入なし(労働力不在)/PSA回収

例:自然に落ちている木の実を拾う、川の水をくむ

(イメージ図)

※ The Emergence of Surplus (剰余の出現)、Surplus Sources (剰余の源泉)

この類型では、労働力の投入が一切なく、自然から直接PSA(自然資源)を獲得します。この場合の剰余の源泉は自然そのものであり、資産の増加(回収)は環境から直接「授かる」形で発生します。


(2) 消費フロー : PSA投入/労働力回収

例:食事によって体力・精神力を回復する

(イメージ図)

この類型では、PSA(例:食料)を投入して労働力を回復します。回復された労働力が投入されたPSAの価値を上回るとき、剰余が発生します。ここでの剰余の源泉は、PSA(食料やコンテンツなど)です。

労働力とPSAは質的に異なる資産であるため、剰余の確認には両者を貨幣換算する必要があります。

なお、消費フローは、労働力とPSAの相互循環構造の片側を構成します。回復された労働力は、再び事業フローに投入し、新たなPSAを獲得する循環に組み込むことが可能です。


(3) 事業フロー : 三要素投入/ PSA 回収

事業フローのうち、PSAの獲得または創出に至るものは、以下の5類型に分類されます。

なお、最初の類型(投入なし/PSA回収=単体ストック変動)は、4象限8類型における事業フローには該当しませんが、「投入(なし)→回収(PSA)」という構造的特徴を共有しているため、本節では広義の事業フローとして含めて扱います。

  • (1) 投入なし(労働力不在)/PSA回収
     例:落ちている木の実など自然物の採取
  • (3-a-1) 労働力投入/PSA回収(自然からの取得)
     例:狩猟や漁労
  • (3-a-2) 労働力投入/PSA回収(知的創造)
     例:小説執筆、建築設計
  • (3-b-1) 労働力投入/PSA回収・変容
     例:自ら伐採した木材を使って家具製作
  • (3-b-2) 労働力・PSA投入/PSA変容
     例:事前に保有していた木材を使って家具製作

これら5類型はプロセスや投入物には違いがありますが、共通する構造的特徴は次のとおりです:

労働力なしには、事業フローからPSAの剰余は生まれない。


・(1) 投入なし(労働力不在)/PSA回収

これは投入ゼロ(労働力もPSAも不要)で自然からPSAを回収するタイプです。これは単体ストック変動に分類されますが、「投入(なし)→回収(PSA)」という構造を持つため、事業フローの特殊型(投入ゼロ型)としてとらえることも可能です。

ただし、他の類型と異なり、ここでは労働力の投入なしに剰余が生まれるため、剰余の源泉は自然自体にあります。

(イメージ図)


・(3-a-1) 労働力投入/PSA回収(自然からの取得) / (3-a-2) 労働力投入/PSA回収(知的創造)

・(3-a-1)、(3-a-2) では、労働力が唯一の投入であり、それによってPSAが獲得または創出されます。労働力の投入なしには、いかなる獲得も創出も不可能という構造です。

(イメージ図)


・(3-b-1) 労働力投入/PSA回収・変容 / (3-b-2) 労働力・PSA投入/PSA変容

・(3-b-1)、(3-b-2) では、労働力によってPSAが別の形に変容されます。
(3-b-1)では、原材料となるPSAも自らの労働力で獲得しますが、(3-b-2)では既に保有していたPSAを使用します。
しかし、どちらも変容の主体は労働力であり、それがなければ何の変化も起こらず、剰余も生まれません。

(イメージ図)


以上5類型すべてにおいて、労働力は単なる補助要素ではなく、剰余生成のための構造的前提条件です。

事業フローにおいては、労働力こそが剰余生成の構造的源泉です。


2.3.2 結論:一次完結型における剰余生成の基本構造

一次完結型において剰余が生成される仕組みは、投入と回収の非対称性と、異なる資産タイプの組み合わせに基づく、明確な構造ロジックを持っています。

  • 消費フローでは、PSAを消費することで労働力が回復されるため、PSAが剰余の源泉となります。
  • 事業フロー(単体ストック変動を含む)では、労働力が投入され、PSAが獲得または創出されるため、労働力が剰余の源泉となります。

『構造分析(3)Part 1:剰余の生成』でも確認したように、消費フローと事業フローは相互に循環する関係にあります。
回復された労働力は事業フローに再投入され、得られたPSAの一部は消費フローに回されて再び労働力の回復に用いられます。

このように、両者は投入(Flow Out)と回収(Flow Back)が相互に補完し合う、相互循環構造(Interdependent Flow Loop)を形成しているのです。

(イメージ図)

※ 三要素の相互作用/PSA–労働力の相互循環
  (出典:Part 1, 3.2節「剰余の基本要素とその循環構造」)
この図は、Part 1/3.2 で紹介した「三要素(LBR/PSA/MNY)の相互作用ループ」の一部を抜き出し、PSAと労働力の相互循環を表しています。

消費フローと事業フローのいずれか一方のフロー単体でも剰余は生成されますが、両者の相互依存関係があることによって、剰余の生成は持続可能なものとなります。

したがって、消費フローと事業フローの相互循環は、一次完結型における剰余生成を支える構造的土台だと言えるのです。


2.4 二次展開型の剰余生成

二次展開型とは、単体フローサイクルの内部で、より拡張された構造を伴うものを指します。ここでは、単体フローに投入された資産が一時的に二次展開され、交換・貸借フロー・投資フローといった外部との相対資産変動に関与します。その結果、新たな資産、または価値が高められた資産が単体フローに戻り、回収されるか、あるいはさらに内部で変容してサイクルが完結する、という構造を取ります。

このような構造において、回収された資産の価値が、投入された資産の価値を上回れば、剰余が発生します。

しかし、前稿・『構造分析(3)Part 1:剰余の生成』で確認したとおり、相対資産変動(交換・貸借フロー・投資フロー)は資産の移動にすぎず、それ自体に剰余を生む構造的源泉は存在しません。したがって、二次展開そのものから剰余は生まれず、剰余の源泉はその「外部」に存在すると考えなければなりません。

では、その「外部」とは何でしょうか?

ひとつは、単体フローサイクルそのもの、すなわち一次完結型の構造です。一次完結型の剰余生成は2.3で既に見た通り、労働力剰余とPSA剰余の生成パターンとその源泉が確認できました。ただ、一次完結型・単体フロー自体には貨幣は登場しません。

したがって、残された貨幣の剰余生成については、二次展開型の二次展開部分である相対資産変動で追求していくしかありません。ただ、相対資産変動自体では、剰余の生成は無いことは、こちらもすでに確認した通りです。

結局、相対資産変動で流通する貨幣がどこから来たのか、その源泉はさらに外部へとさかのぼらねばなりません。

そして、最終的に、我々はひとつの結論にたどり着きます:

あらゆる貨幣の流入は、その源泉をたどると、最終的には「貨幣発行」に行き着く。


2.5 まとめ:剰余の源泉

本章を通じて、剰余がどのような構造のもとで発生するかを分析してきました。その中心となるのは、単体フローサイクルの内部構造であり、そこにおいて「一次完結型」と「二次展開型」という二つの発展形式を区別しました。


一次完結型:

一次完結型とは、労働力・PSAが直接投入され、その回収・変容によってサイクルが完結する構造です。ここでは、以下のような剰余生成のパターンが確認されました。

  • 消費フローによる労働力剰余:PSAを投入し、労働力を回復する
  • 事業フローによるPSA剰余  :労働力を投入し、PSAを回収・創出する

これらは、投入と回収の非対称性を通じて剰余を内部的に生み出すものであり、まさに単体フローサイクルの本質的な役割です。


二次展開型:

一方、二次展開型では、単体フロー内部で投入された資産が一時的に外部に展開され、交換・貸借フロー・投資フローといった相対資産変動に関与します。しかし、これらの相対変動は、いずれも資産の移動にすぎず、剰余を生み出す構造的な力を持ちません。


三つ目の要素 ― 貨幣:

ここで残された最後の要素が「貨幣」です。貨幣は一次完結型には登場せず、専ら二次展開される相対資産変動の中で流通します。しかし、相対資産変動では剰余が存在しない以上、そこで流通する貨幣の源泉は、さらに外部に求めなければなりません。

そして、最終的に辿り着くのが、貨幣発行(Money Issuance)です。これは、いかなる貨幣の流入も、その源泉を突き詰めていけば、必ずこの構造的起点に行き着くということを意味しています。


結論:

以上の分析を通じて、剰余の源泉は以下の三つに整理されます:

  1. 労働力剰余:PSAの投入によって、消費フロー内で労働力を回復することで発生する剰余
  2. PSA剰余  :労働力の投入によって、事業フロー内でPSAを回収・創出することで発生する剰余
  3. 貨幣剰余 :相対資産変動の先に究極的に存在する貨幣発行

3. 結論 ―― 剰余の源泉・3類型

前稿・『構造分析(3)Part 1:剰余の生成』では、剰余は単体フローサイクルの内部でのみ構造的に発生し得ることを確認しました。

今回の投稿では、その単体フローサイクルの内部構造をさらに深く掘り下げ、どのように剰余が発生するのか、そしてその源泉がどこにあるのかを明らかにしました。たとえ貨幣以外の資産であっても、剰余を認識するためには、最終的に貨幣単位で評価・測定される必要がある(=剰余は貨幣を求める)――という前提での分析です。

まず、単体フローサイクルは次の二つに分類されます。

  • 一次完結型:外部と接触せずに、単体の内部で完結する構造
  • 二次展開型:外部との接触(相対資産変動)を一時的に含む構造

このうち、剰余を生成する構造を持つのは一次完結型だけであり、そこでは以下の二つの剰余生成パターンが確認されました:

  • 労働力剰余:PSAを投入し、消費フローによって労働力を回復する構造
  • PSA剰余:労働力を投入し、事業フローを通じてPSAを回収または創出する構造

一方で、「貨幣」は一次完結型には登場せず、もっぱら二次展開型――交換・貸借フロー・投資フローといった相対資産変動――の中で流通します。しかし、これらの相対資産変動には剰余を生み出す構造的な力は存在せず、貨幣の源泉はさらにその外部に求めざるを得ません。

その結果、たどり着くのがただひとつの結論です:

あらゆる貨幣の流入は、最終的に「貨幣発行(Money Issuance)」に行き着く。

これは、剰余の源泉が本質的に次の三つに集約されることを意味します:

  • 労働力剰余:PSAを投入し、消費フローで労働力を回復する
  • PSA剰余:労働力を投入し、事業フローでPSAを回収・創出する
  • 貨幣剰余:相対資産変動の外側にある「貨幣発行」

ただし、この「貨幣発行」という構造の内実――その過程で何が起きているのか、そこに本当に剰余があるのか――は、本稿ではまだ踏み込んでいません。

この問いこそが、今後の投稿で探求していく『貨幣の本質』の核心的なテーマとなります。


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