BSから見える『お金のしくみ』
★Ⅰ.馬の骨でもわかる『BSのしくみ』
【4】資産の類型
5.『絶対資産』と『絶対純資産』<ストック資産> <★★★今回はココ★★★>
★Ⅱ.馬の骨でもわかる『お金のしくみ』
★Ⅲ.BSから見える『財政破綻とは何か?』
★Ⅳ.BSから見える『成長とは何か?』
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<本稿のイイタイコト>
Ⅰ.馬の骨でもわかる『BSのしくみ』
【4】資産の類型 5.『絶対資産』と『絶対純資産』<ストック資産>
・ストック資産である『蓄積』は、フロー資産である『権利/義務』以外の全ての資産。
・『蓄積化した権利』『ストック化したフロー資産』は、元々『相対的』だが
『絶対資産』『絶対純資産』として振る舞う。
・『権利と義務の重ね合わせ』、あるいは『フロー資産とストック資産の重ね合わせ』が、
『対象領域ジャンプ』により『権利の蓄積化』、『フロー資産のストック化』を生み出す。
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『資産の類型』を見ていくシリーズ、今日は残りのひとつ、『ストック資産』について、 『対象領域ジャンプ』を絡めながら見ていきます。
Ⅰ.【4】3.『絶対資産』と『絶対純資産』<ストック資産>
BS勘定科目について、ストックとフローを切り口に類型化する考えについて、以下投稿にて説明しました。
ここでは、フロー資産である『権利/義務』以外の全ての資産を、一括りに『蓄積』と表現することを説明しました。フロー資産以外の資産、つまりストック資産である絶対資産/絶対純資産は、基本『蓄積』と表現できます。
ただ、フロー資産ではあるものの『蓄積的』になっているものがある、言い換えると『権利/義務』が『蓄積化』していることがあります。
これまで折に触れて利用している「令和4年度トヨタ自動車連結財務諸表」のBS勘定科目について、絶対資産/絶対純資産における『蓄積』『蓄積化した権利』を確認し、ひとつひとつ見ていきます。
(注)『現金・預金(★)』については、後日『Ⅱ.馬の骨でもわかる「お金のしくみ」』において詳しく説明していきますので、ここでは触れません。
『蓄積(ストック資産)』の資産増減類型
まず、借方/純資産から見ていきます。
★絶対資産/棚卸資産:『【Ⅲ】自己フロー投入⑥事業投入』で獲得した蓄積
借方/絶対資産の「棚卸資産」は、資産増減類型『【Ⅲ】自己フロー投入⑥事業フロー』を通じて獲得できる蓄積、具体的には「生産事業の結果、生産物として回収される棚卸資産」として確認できます。
生産事業を始めようとする事業者は、まず元手資金(現金)を確保します。
それを元手に生産設備・原料・労働力等に資金投入し生産活動を行い(事業フロー投入)、販売目的の棚卸資産を手に入れます(事業フロー回収)。
回収した棚卸資産は、『権利/義務』とは関係なく、自分自身が100%支配権をもち、販売など資産処分を自由にできる『蓄積』です。
★絶対資産/有形固定資産・無形固定資産:『【Ⅱ】ストック間移動②交換』で獲得した蓄積
借方/絶対資産の「有形固定資産・無形固定資産」は、一般的に取引が理解しやすい『売買(ストック交換)』を前提に確認できます。
資産を手に入れたい事業者は、まず元手資金(現金)を確保します。
手に入れた現金をもとに、獲得したい固定資産・無形資産と自らの現金を交換する『売買』、すなわち資産移動類型の『【Ⅱ】ストック間移動②交換』を実施します。
『蓄積』の一番典型的な移動方法である『交換』の動き方は理解しやすいと言えます。
★ 絶対純資産/資本金:『【Ⅰ】①ストック自己増殖』で獲得した蓄積
次に貸方を見てみます。貸方/絶対純資産の『資本金』は、結局お金ですから、その本質は後日『お金のしくみ』で説明しますが、ここでは、会社設立の際に自らの資金を資本金として計上する、つまり『自分のもの(純資産)』であり相対関係がない、という観点から、『単体xストック』の資産増減類型である『【Ⅰ】ストック自己増減』で確認できます。
★ 絶対純資産/剰余金:『【Ⅲ】自己フロー投入⑥事業投入』で獲得した蓄積
貸方/絶対純資産の『剰余』については、事業活動で利益(剰余)を獲得することを前提にした『【Ⅲ】自己フロー投入⑥事業フロー』で確認できます。
資本金として繰り入れた現金(元本)を事業投入し、現金(元本)の回収と共に現金(増加)すなわち剰余(増加利益)を獲得します。自らの事業投資で獲得した剰余ですから、相対関係の無い100%自己支配権のある『蓄積』となります。
蓄積化(ストック化)した『権利(フロー資産)』
絶対資産/絶対純資産の『蓄積』について見てみましたが、シンプルに理解できたと思います。それでは今度は、『蓄積化した権利』について見てみましょう。
トヨタのBS勘定科目では、絶対資産に『金融資産(権利)』、および絶対純資産に『現物出資(権利)』があります。
絶対資産/絶対純資産というフロー資産/権利義務とは無関係なはずの場所に属する『蓄積化した権利』とはどのようなものか、改めて確認してみましょう。
★ 絶対資産/金融資産:『【Ⅱ】ストック間移動②交換』により蓄積的に扱われる権利
トヨタBSの勘定科目を見ると、『相対資産』に『金融債権』、『投資資産』に『金融資産』があります。これらは『権利/義務』関係を有する『フロー資産』ですから何ら不思議はありません。一方フロー資産ではない『ストック資産』としての『絶対資産』にも権利としての『金融資産』があり、また『絶対純資産』にも権利としての『現物出資』があります。
『権利』が『蓄積化』して『絶対資産』あるいは『絶対純資産』にあるとはどういうことなのか、具体例を挙げてみていきます。
ここでは、Aという投資家が、新たに事業を始めるために投資家の出資を必要としているBという投資先に、株式投資をする場面を考えます。
Aは保有していた現金をBに外部投資(外部フロー投入)をします。それと同時に、外部フロー投入の効果で相対対生成が発生し、A/B間に権利義務関係が生じます。すなわち、AはB社株式を保有することによりBに対する権利者となり、BはAの出資を受けることでAに対する義務者になります。
この段階では、A/B間のフロー投入により、Aはフロー資産の権利である『投資資産としてのB社株式』を保有しています。
次に、第三者である投資家のCが登場します。CはAが保有しているB社株式を獲得したいと希望します。AはB社株式をCに売却することに合意し、AとCの間で、Aが保有するB社株式と、Cが保有する現金を交換(ストック間移動)することにします。
この時、Aが保有しているB社株式は『ストック交換』の対象である『蓄積』の動き方をします。すなわち、A/B間の『権利(フロー資産)』である『B社株式』は、『対象領域ジャンプ』を経て、A/C間のストック交換の対象物である『蓄積化した権利』に変質します。
B社株式の保有者/権利者はAからCに変更されますが、B社は依然として出資金/非支配持分を維持しており、その義務の相手先である権利者との相対関係は維持しています。ただ、B社が関知しない他の対象領域での取引により、相対関係の相手先はA社からC社に変更されます。
Aが保有していたB社株式は、AがBとのフロー投入による相対関係を前提とするときには『権利(投資資産)』として機能し、AがCとのストック交換による相対関係を前提とするときには『蓄積化した権利(絶対資産)』として機能します。対象領域ジャンプによって、『権利(フロー資産)』は『蓄積化した権利(ストック資産)』へと変質することが見て取れます。
★ 絶対純資産/現物出資:『【Ⅰ】①ストック自己増殖』により蓄積的に扱われる権利
トヨタ自動車のBS勘定科目の貸方/絶対純資産には、『現物出資(権利)』があります。
これも上記のA社の延長線上で具体的に確認します。Aは保有していたB社株式をCに売却することをやめ、新たに自社100%子会社D社を設立する際の出資金に充当することにします。
Aの子会社であるD社は、Aが現物出資したB社株式を資産にもち、B社株式の時価評価額相当の金額を資本金計上します。
D社のオーナーであるA社自らが資本金としてB社株式を拠出したため、資産増減類型『【Ⅰ】ストック自己増減①自己増殖』により、D社はB社株式を資本金として取得した形を取ります。B社株式は『投資フローの権利』ではあるものの、ストック自己増殖の対象物(蓄積)として扱われるため、相対関係が消えた『蓄積化した権利』と捉えられます。
『対象領域ジャンプ』が生む『権利と蓄積の重ね合わせ』
フロー資産を対象領域とするときには『権利』である「B社株式」が、『対象領域ジャンプ』してストック資産が対象領域になると、『蓄積化した権利』に変質することを見てきました。
これは、ひとつの「B社株式」ではあるものの、『権利』と『蓄積(としての権利)』が『重ね合わせ』状態になっている、と言い替えることができます。
この『重ね合わせ』の状態を改めて確認します。
上述した、A社が保有するB社株式をC社が取得するケースで改めてイメージ化します。
まず、A社のB社への投資前の状態は下図の通りです。
AがBに投資フロー投入します。Aは借方/資産としてB社株式(権利=投資資産)を、Bは借方/資産として現金を、貸方/純資産として資本金/非支配持分(義務=相対純資産)を、それぞれ保有します。
B社株式は、A/B間のフロー投入を対象領域としているため、権利(フロー資産)です。
ここで、B社株式購入希望のC社が登場します。AはCとの間で売買を成立させるため、A/B間の相対関係の外側で、A/C間の相対関係を構築します。
具体的には、Aは「B社株式が属する対象領域」を「A/B間のフロー投入」から「A/C間のストック交換」にジャンプさせます。これは物理的に移動しているわけではないですから、Aの頭の中での虚構の組み換えを行うのが対象領域ジャンプの正体です。
結果として、Aにとって、『権利(投資資産)』であったB社株式は、『蓄積化した権利(絶対資産)』に変質します。
A/C間の株式売買を実行するために対象領域ジャンプを実施した後のAとCのBSは下図の通りです。
ここからは、A・Cがそれぞれ保有している蓄積/絶対資産同士を、通常の資産増減類型『【Ⅱ】ストック間移動②交換』に沿ってストック交換を進めます。
以上が、A/B間のフロー資産を対象領域ジャンプによってA/C間のストック資産に移動させるストーリーです。
このストーリーの最初と最後を改めて並べて俯瞰してみると、下図の通りになります。Aが保有していたB社株式は、同じ株式であるにも関わらず、対象領域ジャンプ前は『投資資産(フロー資産)』でしたが、対象領域ジャンプ後は『絶対資産(ストック資産)』に変質しています。
同じものであるにも関わらず対象領域ジャンプ前後で変質するということを、どのように理解すればよいでしょうか?
それは、『権利と蓄積の重ね合わせ』が発生していると説明できます。あるいは、『相対的資産と絶対的資産の重ね合わせ』、『フローと資産とストック資産の重ね合わせ』、『フローとストックの重ね合わせ』と言い替えることも可能です。
この『重ね合わせ』が、対象領域に応じてどちらが表に出てくるのか変わるという状態を生み出していることが見て取れます。
この『重ね合わせ』の状態は、『二面性を持つ』とも言えますが、『二面性』については、以下既稿『投資資産と相対純資産』でも指摘しました。
この投稿の後、考察を重ねるにつれて、この『二面性』あるいは『重ね合わせ』は、特に『投資資産/相対純資産』に限った話ではなく、一般的に『フロー資産とストック資産』においてみられる現象であることがわかりました。
例えば、投資フロー以外のフロー資産のもう一つの類型である『貸借フロー』における「債権譲渡」が挙げられます。貸借フローで発生した権利/義務である『債権/債務』の債権を、ストック資産として交換すること、つまり売買する「債権譲渡」は実際に行われています。貸借フローでも、対象領域ジャンプにより、貸借フロー資産をストック資産に変質させることが可能です。
最後に改めて、この権利と蓄積の『重ね合わせ』あるいは『二面性』についてのイメージを下図で見ておきます。おかれている対象領域に応じて、重ね合わされている性質のどちらが表に出てくるかが変わる、変えることができる、ということです。
今回は以上です。
これで、『BSから見えるお金のしくみ』の第一章である、『Ⅰ.馬の骨でもわかる「BSのしくみ」』の投稿に一旦区切りをつけたいと思います(*1)。
ここまでは、これから論稿を進める当方のイイタイコトの本丸である『Ⅱ.馬の骨でもわかる「お金のしくみ」』の準備段階と言えます。準備段階にかなりの時間をかけたのは、準備をしっかりすること、つまり、BSを使い考える理論のフレームを作り上げることが、「お金とは何か」を書いて行く際にとても重要になるからです。
次回からは、「お金とは何か」についての論稿に着手したいと思います。
それでは。
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(補足)
*1 『Ⅰ【1】ストックとフロー』及び『Ⅰ【2】相対関係の入れ子構造』はいまだ未投稿ですが、目次の該当ページにイメージ図のみ掲載しています。本論稿の主題である、『Ⅱ.馬の骨でもわかる「お金のしくみ」』にいち早く着手したいため、『Ⅰ.馬の骨でもわかる「BSのしくみ」』の残りの投稿は、今後必要に応じて着手することでご理解ください。