BSから見える『お金のしくみ』
★Ⅰ.馬の骨でもわかる『BSのしくみ』
【3】資産増減の類型
7.『単体対生成』と『相対対生成』 <★★★今回はココ★★★>
★Ⅱ.馬の骨でもわかる『お金のしくみ』
★Ⅲ.BSから見える『財政破綻とは何か?』
★Ⅳ.BSから見える『成長とは何か?』
前回までで『Ⅰ.【3】資産増減の類型』の投稿を終了し、次から『Ⅰ.【4】資産の類型』を始めますと書き、その後『資産の類型』の論稿の検討を始めていますが、その過程で『資産増減の類型』に補足を入れる必要があることに気が付きました。今回はそのことを書くことにします。
具体的には、『対生成』について補足をします。『対生成』については、以下の『Ⅰ.【3】6.入替/対生成/対消滅』で説明しました。
ただその後、『資産の類型』をあれこれ考えている過程で、対生成には、『単体対生成(たんたいついせいせい)』と、『相対対生成(そうたいついせいせい)』があり、これを明確に分けて議論を進める必要があるとの考えに至りました。
『貨幣とは何か?』を考えるにあたり『対生成』が重要な切り口であることは既に書きましたが、単に『対生成』が重要なのではなく、『相対対生成』が重要である、と明確にする必要があります。
『単体対生成』と『相対対生成』ではそれが発生する『資産増減の類型』、及び、それが機能する対象領域が異なる、ということです。『単体対生成』の方は、BSのしくみから必然的に発生する動きであり、『貨幣のしくみ』を説明することにはあまり関係がありません。
今回はそのことを解説した上で、『資産の類型』の検討を更に進めて行きたいと思います。
Ⅰ.【3】7.『単体対生成』と『相対対生成』
前回の『Ⅰ.【3】6.入替/対生成/対消滅』において、貸借フローや投資フローなどの『外部フロー投入』において、『対生成』が入れ子構造で発生していることを示すため、以下の図式を使いました。
上記図式では、単体内(貸借フローにおける借手、または投資フローにおける出資先)で発生する対生成と、自分/相手の相対関係(貸借フローにおける貸手/借手の相対関係、または投資フローにおける株主/出資先の相対関係)で発生する対生成を、両方とも単に『対生成』として表示しましたが、厳密には、大きな違いがあります。
単体内で発生する対生成は『単体対生成』、相対関係で発生する対生成は『相対対生成』として区別する必要があります。
単にBSをバランスさせる『単体対生成』
単体対生成と相対対生成の違いを確認してみます。まず、『単体対生成』とは何かを確認しますが、結論から言うと、こちらは、当方が「貨幣とは何か」を考えるに当たって重要と考える対生成(それが『相対対生成』であることは今後の論稿であきらかにしていきます)ではなく、単にバランスシートの性格・機能を反映している動きを表現しているものにすぎません。
BS(バランスシート)の「バランス」とは、借方(資産)と貸方(負債+純資産)がイコールになっている、バランスが取れていることを示しています。つまり、借方の資産が増えると、貸方も負債あるいは純資産どちらかが増加して、Before/Afterで借方=貸方を維持している(単体対生成)、同様に借方の資産が減っても、貸方も負債あるいは純資産どちらかが減少して、Before/Afterで借方=貸方を維持している(単体対消滅)、ということを表しています。
借方の増加に合わせて貸方も増加(単体対生成)、借方の減少に合わせて貸方も減少(単体対消滅)、ということです。
単体BSの借方/貸方をバランスさせる動きの表現ですので、貸借フローなどの『【Ⅳ】外部フロー投入』に限らず、資産総額が増減する際には、その増減額と同額だけ、(負債+純資産)総額が同時並行して増減するという形で、常に単体対生成/単体対消滅は発生します。
よって、外部フロー投入のみならず、ストック移動である『【Ⅰ】ストック自己増減』でも『単体対生成/単体対消滅』は発生します。つまりストック、すなわち、『蓄積』も『単体対生成/単体対消滅』します。借方/資産の『蓄積』の増加に合わせて、貸方/純資産の『蓄積』が『対生成』することで、BSがバランスを維持する、という動き方が見て取れるものです。
少し具体的に考えてみましょう。例えば、漁師が自給自足で生活している場合を想定します。漁師が海で魚を獲ってくる場合、海の魚は誰のものでもないですから、相手は『自然』であり、相対関係にあたる相手(人・法人)は存在しません。自力で魚を獲って資産を増加させることは、資産増減の類型では『【Ⅰ】ストック自己増殖』にあたり、「借方」ではそのまま資産として計上されます。同時に、「貸方/資産の出所」は、自力で獲って来た自分のものなので、『他人のもの=負債』ではなく、『自分のもの=純資産』に計上されます。借方の『魚(食料)』と貸方の『剰余(自力で獲得した利益にあたる)』が、『対生成』される、ということが見て取れます。
『権利/義務』ではない『蓄積』が、『単体』BS内の借方/貸方両方で増加する『=対生成する』という動き方を、『単体対生成』と呼ぶことにするものです。
『単体対生成』とはどういうものか理解いただけたと思いますが、これはこのあと解説する『相対対生成』とは根本的に違います。
『相対対生成』は『無』から『有』を生み出せる?
次に『相対対生成』について見てみます。
相対対生成(相対対消滅)は、『相対関係』で『権利/義務』が『同時発生(同時消滅)』することを表します。『蓄積』は相対対生成しません。
具体的には、自分と相手の相対関係において、自分の資産の増加と同時に相手の負債が増加する(立場を逆にして「自分の負債/相手の資産」でも可)ことを『相対対生成』、同様に同時に減少することを『相対対消滅』、と表現することにします。
ここで、当方がなぜここまで『相対対生成』に注目しているのかについて少し触れます。それは、『相対対生成』が、『資産ゼロ』の状態から資産を生み出す力を持っていることが見て取れるからです。『無』から『有』を生み出すことを可能にするのが『相対対生成』です。
それはどういうことか?、について具体例を挙げて見てみましょう。
自給自足経済のなかで、漁師と狩人が暮らしていたとします。資産は自分の生命力を源泉(純資産)とした、労働力のみです。
自分の労働力を使い、漁師は魚を、狩人は獣を獲って食料として消費して暮らしています。ある時、漁師の漁獲高は好調で、魚の余剰在庫を抱えていましたが、狩人の狩猟は不作で在庫がなく、食料が足りなくなっていました。
そこで狩人は、将来獣を獲得したら漁師に分け与える約束(義務)と引き換えに、漁師に魚を分けてもらう様にお願いしました。漁師も将来自分が漁獲不足の時に狩人に助けてもらうこと(権利)を期待し、快く引き受けてくれました。
この狩人と漁師の相対関係における約束において、『権利/義務』が『対生成』されていることが見て取れます。
狩人の資産が、漁師から獲得した魚の分だけ増加するのと併せて、狩人の負債は、将来、漁師に獣を分ける『義務』の分だけ増加します(これは既述の単体対生成です)。狩人の負債で『義務』が発生するのに対応し、漁師の資産に『権利』が発生していることが見て取れます。これが『相対対生成』です。
ここで再確認しますが、元々狩人は、労働力以外の資産はゼロでした。資産ゼロの状態から、漁師との『相対関係』で『権利/義務』を『相対対生成』させることで、資産(魚)を生み出しています。
そう、『相対対生成』は、『無』から『有』を生み出す特殊な力があるのです。
『入替』『単体対生成』『相対対生成』のループ構造
外部フロー投入において『相対対生成』が『権利/義務』を発生させることにより、『無』から『有』を生み出す仕組みを確認しました。一方で、外部フロー投入において『相対対生成』が発生するしくみを改めて俯瞰して見ると、これまでに見てきた『入替』『単体対生成』、及び『相対対生成』が、ループ構造を形成していることが見て取れます。更にこれは単にループ構造を形成しているだけではなく、『入替』『単体対生成』を伴って初めて『相対対生成』が発生しており、外部フローにおいて三身一体のしくみになっています。すなわち、『入替』『単体対生成』『相対対生成』の3つがセットでループ構造を形成することで、『無』から『有』を生み出す仕組みが機能していることが見て取れます。
今後、資産を類型化し『貨幣とは何か?』を俯瞰していくにあたり、このループ構造を把握しておくと、資産と貨幣の動き方が理解しやすくなると考えるため、このループ構造について確認しておきます。
まず、外部フロー投入における『入替』『単体対生成』『相対対生成』がどのように発生しているか、以下の図で再度見てみます。
外部フローで、『入替』『単体対生成』『相対対生成』の3つは、以下の順序で動いていくことが見て取れます。
❶入替(減少) → ❷単体対生成 → ❸相対対生成 → ❶”入替(増加)<ループが繋がる>
ループの繋がりを見る前に、❶❶”❷❸についてそれぞれ個別にズームインして見てみます。
★❶入替(減少)/❶”入替(増加)
最初の❶入替(減少)と最後の❶”入替(増加)は、この二つで一組の資産増減類型『【Ⅱ】ストック間移動②-交換(減少)/②+交換(増加)』を構成していることがわかります。
★単体対生成
外部フロー(相対Xフロー)の一連のループのつながりの途中にある単体対生成を見てみると、【Ⅰ】ストック自己増減(単体xストック)の『ストック自己増減』と同じ資産増減の類型が現れるのが見て取れます。この動き方は、【Ⅱストック間移動】の『③喪失強奪』『④贈与』での動きも同様です(*1)。
また『単体対生成』はBSの「借方/貸方のバランス」機能そのものであることは前述した通りです。
★相対対生成
以上で『入替』『単体対生成』『相対対生成』それぞれにズームインして中身を把握できましたので、次に、それぞれがどのようにつながってループを形成しているのかを見てみます。
★全体像(再掲)
❶入替(減少) ⇒ ❷単体対生成 ⇒ ❸相対対生成 ⇒ ❶”入替(増加)<ループが繋がる>
★ ❶入替(減少) ⇒ ❷単体対生成
★ ❷単体対生成 ⇒ ❸相対対生成
★ ❸相対対生成 ⇒ ❶”入替(増加)
❶入替(減少)で始まり、❷単体対生成に渡されたループは、❸相対対生成を経て❶”入替(増加)に戻ってきて、❶/❶”=②-交換(減少)/②+交換(増加)でループが一周して繋がります。「資産増減類型【Ⅱ】②-交換( 減少)/②+交換(増加)」が、「ループの始点/ループの終点」となって、全体が繋がっていることが見て取れます。
今回の投稿は以上です。『相対対生成』が『無』から『有』を生み出す仕組みのイメージがわいたでしょうか?
次回からは、『Ⅰ.【4】資産の類型』を始める予定です(今度は本当に、と現時点では強く思っています)。
それでは。
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(補足)
*1 ③喪失強奪、④贈与は、【Ⅱ】ストック間移動(相対xストック)ですので、相対関係が前提ですが、相対関係におけるストックの移動が一方通行、つまり、贈与(受け)する単体、強奪する単体は、資産の排出は無く一方的に自らへの資産搬入のみです。一方的に資産を受け入れるだけの動き方(矢印)は、単体で資産を自己増殖する動き方(矢印)と結果的に同じになるため、①自己増減③喪失奪還④贈与は同様の資産増減の類型(矢印)を示すことになります。
1 thought on “『無』から『有』を生み出す『相対対生成』”
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