=民主主義から自由を抜き取る試みを許すな=
(34) 目次 ・ 虚構で地球を支配した人類/ハラリ氏のストーリー ・ 虚構で世界を支配しようとする中国 ・ 虚構で民主主義の乗っ取りを謀る試み ・ 人が信じた虚構が現実になる ・ 自律思考で自律行動する
こんにちは。柳原孝太郎です。
『虚構』で地球を支配した人類/ハラリ氏の『ストーリー』
ユヴァル・ノア・ハラリ氏のベストセラー『サピエンス全史』に、人類が地球を支配できた理由として、『虚構』を構築する能力のことがでてきます。
すなわち、人は人間の脳の働きが生み出す言葉の力で、他の人に自分の考えを信じさせ、それを大規模に広げて大人数で協力して行動することで、大きな力を発揮できます。他の人に信じさせるものが言葉で作られた『ストーリー』で、これは人が頭の中で自由に勝手に構築したつくりもの、つまり、フィクション=『虚構』です。
人は脳の働きで虚構を自由自在につくり、自由自在に操ります。逆に言うと、人は他人の虚構で、自由自在に操られてしまいます。虚構の作り方と操り方の上手い下手が、人間の力関係、支配関係にも影響すると言えます。
希望、信念、思い込み、など自分の頭に浮かぶ身近なことから、国、お金、宗教、社会、政治、経済など、社会の全て、人間活動の全てが、人が虚構を信じることで成り立っています。
ハラリ氏が教えてくれるのは、人の世は全て、虚構でできている、ということです。
では、自然科学はどうでしょうか? 物理的な事実は確かに存在するとしても、それを信じるか信じないかは、人が頭の中で虚構を構築します。
米国で“地球平面説”を信じる人がいるのをご存じですか?
CNN 世界に広がる「地球平面説」 その背景にあるものは? 2020.01.01 Wed posted at 18:41 JST https://www.cnn.co.jp/fringe/35146840.html
そんなばかなと思うのですが、本当に信じている人達がいます、それも大規模に。科学的・物理的事実は確実に存在すると思う一方で、斯様に物理学を信用せず、地球は平面であると本当に信じている人の集団が地球に存在するのもまた、事実です。これが人の世と言えます。
虚構で世界を支配しようとする中国
ハラリ氏が教えてくれた虚構という切り口で社会を俯瞰して見ていくと、もやもやしている構図が見えてくることがあります。最近特に注目しているのは、中国の動きです。過去30年間で経済的な飛躍を遂げた中国はいまや米国に追いつき追い越せの勢いで世界の勢力図を塗り替えようとしています。
ひとつ我々西側諸国の自由主義陣営に身を置くものにとっての大きな懸念は、中国共産党が自由主義・民主主義を否定する専制的な体制で自国の権益とその体制の仕組みを世界的に拡大しようとしていることです。
中国共産党の覇権を維持する為に国が存在している中国では、あたかも国民の為を装う無理な虚構を流布しながら、中国共産党の覇権維持の障害になる中国国民の自由と人権を奪っています。
最近では、テニス選手の彭帥氏がSNSで中国共産党元幹部から性的暴力を受けたとの告白をして以降、抑圧を受けているのではないかとの疑念の目が世界から向けられています。それに対するIOCとWTAの対応の違い、また他にも北京オリンピックに対する外交的ボイコットの対応の違い等から見えてくるのは、理念を元にして中国に抵抗する勢力と、損得勘定から中国の虚構に屈する勢力が世界にちらばるまだら模様の構図です。
そんな折、米国主催の民主主義サミットに招待されなかった中国が、「中国の民主」と題する白書を公表し、政府系報道機関の環球時報・人民日報などが大々的に中国の正当性を訴えるキャンペーンを始めています。
虚構で『民主主義の乗っ取り』を謀る試み
環球時報に12月4日付で「中国の白書」についての社説があるので、検索エンジンの日本語翻訳で読んでみました。
環球時報 2021-12-04 16:08 社会的論評:中国の白書は民主主義の定義に関する米国と西側の独占を打ち破る https://opinion.huanqiu.com/article/45qldcJAInC
その冒頭部分に、
「…米国と西側における民主主義の定義の独占に異議を唱え、人間の民主主義の多様な実践のさらなる明確化を示した。…」
との記載があります。それ以降も一貫して中国共産党が主に中国国民を自らの虚構に押し込めようとする内容が一目瞭然なのですが、最初のこの部分から、その虚構ぶりが際立っています。
「民主主義の定義の独占に異議を唱える」というのはどういうことでしょうか?
まず、根本にあるのは、中国国民に向けたメッセージ、マインドコントロールしようとする意図です。あたかも、民主主義の定義がいくつもあって、西側が自分の都合の良いごく一部のものだけが正当であると主張している様な言い方ですが、明らかに中国共産党のまやかしです。
民主主義の定義がいくつもあることはありません。意味するところの幅があるとしても、少なくとも大前提は、民主主義とは、“民”が“主”なのであって、この大前提で、中国は既に民主主義の定義から外れています。
それを象徴するように、この記事全文、最初から最後まで通して、一言も、“自由”という単語が登場しません。民主主義とは、国民が主である以上、国民の権利が認められていない限り、民主とは言えません。国民の権利の中には、当然人権があり、基本的人権には、経済活動の自由、言論の自由、政治活動の自由など、自由が含まれていなければなりません。
にもかかわらず、中国の民主を語る環球時報の記事は、ひとことも“自由”について、触れることがありません。
この文章で環球時報を通じて中国共産党が言いたいのは、
『中国国民には、一切自由は無い』
ということに他なりません。
自由が一切認められ無い体制のことを、地球上の誰も、中国共産党を除き誰も、民主主義とは言いません。
そういう趣旨であるにも関わらず、中国共産党は環球時報を通じて、言葉を並べ立てて、中国国民を虚構で騙してマインドコントロールしようとしているように見えます。
民主主義の大前提から外れているにも関わらず、民主主義は多様であり、中国共産党の専制体制が民主主義だという主張をするのは、『民主主義』という看板を中国共産党が乗っ取って中身を全く別のもの、自由を抜き取った空っぽの看板だけの民主主義にする謀略に他なりません。
人が信じた虚構が現実になる
ハラリ氏が教えてくれたのは、人の世は全て虚構である、ということです。すなわち、虚構を大部分の人が信じてそれを前提に協力する様になると、大きな力を得ると言うこと、すなわちその虚構が現実になる、ということです。
自由主義・民主主義の価値をただの少しでも毀損したくない我々にとって、大変脅威なのは、中国が米国に追いつけ追い越せの経済大国になっていることです。経済力、損得勘定は、人が生きて行く上で無視できない要素です。死ぬよりは経済的に助けてくれる人の虚構を信じた方がまし、という現実があることは否定できません。経済的に弱い立場の勢力・人々を経済の力で自らの虚構を信じ込ませるようにねじ込むことができます。
IOCが彭帥氏の問題で完全に中国政府に追従しているのも、北京オリンピックで外交的ボイコットを表明する西側諸国に対して、次の夏季・冬季オリンピックを開催するフランス・イタリアが中国に協力する姿勢を示すのも、すべて損得勘定からと言えます。
益々力を増している中国が、経済力を背景に自らの虚構を世界中に拡大し、その軍門に下る中小国が拡大している現実は明らかに存在しています。
ただ、人として生まれて来た以上、損得勘定だけを追いかける損得マシーンとして人生を終えるのには、やはり誰しも思うところがあるはずです。
自律思考で自律行動する
中国共産党が虚構を駆使して中国国民をコントロールしようとしている構図を見ていて、いつも不思議に思います。中国国民は、良く中国共産党の虚構に我慢ができるな、良く耐えられるな、と思います。中国共産党に歯向かったらただではおかない、反抗したら間違いなく損をする、というマインドコントロールを浸透させて、13億人が皆、『総損得マシーン化』しているのは、異様な光景です。
そもそも、天安門事件を封印して知らぬ存ぜぬを貫く中国はおかしい。
そもそも、香港の一国二制度で保障されていた自治を奪った中国はおかしい。
そもそも、新疆ウィグル自治区でのジェノサイドの存在をスルーする中国はおかしい。
そもそも、彭帥氏のSNSが消されて、告発が無かったことにしている中国はおかしい。
そういう、損得を超えた損得外の部分で、そもそもおかしいじゃないか、ということを自律思考で考えて、自律行動ができる社会でありたいものですが、残念ながら中国で中国国民がそうすると、間違いなく損をするのが現実となっています。
そういう現実を生んでいる、中国共産党の虚構を13億人全員で信じる社会に対しては、当事者の中国国民は実際に損をするのでなかなか行動できないとしても、中国の外から中国を見て、中国共産党の虚構をおかしいと感じる人々が、声を上げるのは止めてはならないと思います。
一方で、掲題の環球時報記事が指摘している西側諸国の民主主義の問題は、残念ながら事実で、このまま放置すると、中国の虚構に西側の民主主義が飲み込まれてしまうことになりかねません。
自分の人生を生きて行く上では誰しも損得勘定は無視できません。無視できないのですが、損得勘定だけを見るのではなく、損得勘定を超えた損得外、そもそもそれ、おかしいじゃないか、という感覚を決して忘れずに、自律思考で考えて変えていくべきものにはしっかりと声をあげ、行動をしていきたいものです。
それでは。
1 thought on “民主主義の乗っ取りを謀る中国”
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