BSから見える『お金のしくみ』
★Ⅰ.馬の骨でもわかる『BSのしくみ』
★Ⅱ.馬の骨でもわかる『お金のしくみ』
【3】貨幣発行の類型
1.自給自足 <★★★今回はココ★★★>
★Ⅲ.BSから見える『財政破綻とは何か?』
★Ⅳ.BSから見える『成長とは何か?』
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Ⅱ.【3】1. 自給自足経済をBSで表すと
Ⅱ.【1】【2】では、貨幣の類型と機能をBSを使って見てみましたが(*1)、Ⅱ.【3】では、貨幣の類型別に、貨幣をどうやって発行しているのか、その貨幣発行の類型をBSを通して見ていきます。貨幣を発行するというのは、特別な権限を持つ国家固有の機能・役割ですが、貨幣発行をBSを使って類型化して俯瞰してみると、貨幣の本質が明らかになってくることがわかります。
まず、今回は、自給自足についてです。自給自足経済は貨幣発行の前ですから、貨幣は当然存在していませんので、貨幣発行の類型という表現も当たりませんが、ここでは、自給自足経済をBSを使って俯瞰してみることにします。追って見ていく貨幣発行の類型別の貨幣経済のしくみを、BSを通して自給自足経済と比べてみると、貨幣の機能・役割がよりくっきり浮かび上がってくるのではないかと考えるため、自給自足、および次回の物々交換について、どのような仕組みになっているのかをBSを通して見てみるという趣旨です。
漁師が魚を獲るために必要な『労働力』
ここでは自給自足の例として、魚を獲って食料として自活している漁師さんを取り上げてみます。漁師さんが魚を獲るために必要なものは何でしょうか?そう、『労働力』です(*2)。
労働力を元手に、漁師を始めて自給自足で暮らしていこうとしている人の資産は、『労働力』ということになります。これをBSに落としてみます。
BSの基本構造は、「Ⅰ.【1】2.資産の状態/資産の出所」で以下であることを確認しました(*3)。
資産の状態が「労働力」ですが、貸方は何になるでしょうか?ここでは、労働力が生まれてくるのは、人が生きて健康でいること、すなわち「生命力」である、とします。
生命力は、他人のものではなく、他ならぬ自分のもの(自己資本)ですので、漁師を始める漁師さんの期初のBSは、以下となります。
100の量の単位はここでは設けないことにし、単純に相対的な量を比べる目的で数値を使います。
労働力をフローに投入する
漁師さんは、自給自足して生活するために、労働力を使って魚を獲ります。ここでは、資産である「労働力100」のうち、50を投入して魚100が取れたとします(*4)。
労働力50の投入により生命力も50減少する一方、食料100を獲得、同時に「剰余」50も獲得できました。その結果、期初のBS(1)での合計資産100から、漁獲後のBS(2)では剰余分増加して合計資産150となりました。
食料消費で労働力/生命力を回復(獲得)
獲得した魚は、減少した労働力/生命力の回復(獲得)の為に、消費(摂取)します。魚50の消費で、漁で使用した労働力/生命力50が回復し、獲得したが消費しなかった残りの魚50が剰余として資産に残り、消費後の合計資産が50増加します。
自給自足経済の成長
漁に行く前の期初BS(1)から、漁に行って魚を獲って、魚を食べて(消費して)生命力を回復した後の期末BS(3)を比較すると以下の通りです。
期末では期初の労働力/生命力100を取り戻したのに加え、剰余として獲得できた魚50の分だけ、合計資産が増加、つまり、「自給自足経済が経済成長」しました。
資産増減の類型
さてここで、漁師さんの資産の増減の類型を確認します。まず、労働力の投入⇒魚の獲得については以下の通りです。
食料の獲得は、自分のものの獲得(獲得したものは自分のものになる)、つまり【③獲得】であり、そのためにフローに資産(労働力)を投入する(資産を減少させる)のは、【③獲得】に対応する【③’c投入】となります。
つぎに、食料の消費⇒生命力/労働力の獲得(回復)については、以下の通りです。
生命力の回復(獲得)は、自分のものの獲得(獲得したものは自分のものになる)、つまり
【③獲得】であり、生命力の回復に必要なのは、【③獲得】に対応する【③’b消費】となります。
自給自足の経済循環
資産増減の類型は、上記で見たように、③’c⇒③/③’b⇒③の二層構造になっていますが、この二つを合わせた自給自足の経済循環を俯瞰すると、以下の様になっています。
これを整理すると以下となります。
これを更に単純化すると、以下となります。
今回の結論は、上図になります。ここから読み取れるのは次の通りです。
1) 自給自足経済は、労働力と食料が相互循環している。
言い替えると、相互交換されている【労働力⇔食料】。
2) 貨幣経済における貨幣発行にあたるものは、自給自足経済における、労働力の発生
であることが見て取れる。労働力の発生は、食料の消費が原動力であり、食料は労働力の
投入で獲得できる。つまり、労働力は、労働力⇔食料の循環の中で、自己発生する。
3) 労働力と食料の循環の中で、【剰余】を生み出すことが可能。言い替えると、
労働投入は、剰余を生み出すことが可能。すなわち、労働投入は、経済成長させる。
今回の記事は以上です。次回は、「物々交換経済」をBSで表してみます。
それでは。
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(補足)
*1 「Ⅱ.【1】【2】」は未だ投稿していません。
*2 魚を獲るためには、もちろん釣りをする、網で獲る、素手で獲るなど、直接魚を手にするために体力を使うことが必要で、それはもちろん労働力ですが、直接的に魚を獲る前に、その為の準備、例えば、海・川に出るために船を作る、釣り竿・釣り糸・釣り針、あるいは投網など、魚を獲るための道具を作る、などの事前準備にも、労働力が必要です。また、船を作るためには、木が必要で、木を切り倒して手に入れるためには、やはり労働力必要、という様に、ここでは様々な必要なものは、全て究極的にシンプルに『労働力』に集約できる、と考えて議論をすることにします。
*3 「Ⅰ.【1】2.」は未だ投稿していません。
*4 労働力50を投入しても、魚が20しか取れないときも、ちょうど50取れるときも
あります。ここで注目しているのは、収穫の絶対額の多寡ではなく、投入量を上回る
量(=剰余)の獲得が可能である、ということです。
(参考:Ⅰ.【3】資産増減の類型)