=宮台真司氏が言う『イーロンマスクの正義』とは?=
※本校執筆中に宮台真司氏が暴漢に襲われるとのニュースに接しました、命に別状ないとのことで何よりです。一日も早い回復を心から願う一方、宮台氏の今後の言論活動・発信に影響が出ないか、大変心配しています。宮台氏とその関係者の安全を確保した上で、これまで同様の言論活動を継続できるような環境が維持されることを祈ってやみません。
(48) 目次 ・宮台真司氏が言う『イーロン・マスクの正義』とは? ・米国で言論の自由を叫びつつ、言論統制を引く中国にすり寄る二枚舌 ・二枚舌のマスクに『一貫性』はあるか? ・米国世論の分断を煽ることでマスクが得をすること ・究極の『損得マシン』が利用する『法の奴隷』 ・マスクに代表されるテック・ジャイアントが向かうところ
こんにちは。柳原孝太郎です。
イーロン・マスクがツイッターを買収して以降の混乱は依然として収まるところを知りません。
言論の自由を標ぼうしつつ、過去に各種差別発言を繰り返してアカウント停止されたヘイト論者のアカウントを次々と復活させている経営手法には、厳しい批判と共に具体的な離反が加速しており経営危機に陥るという見方があります。
日本経済新聞 電子版 2022/11/28 17:00 [FT]Twitter、イーロン・マスク氏と広告主の対立で収入減 イーロン・マスク Twitter Think! FT 北米 https://www.nikkei.com/nkd/theme/6/news/?DisplayType=2&ng=DGXZQOCB291UG029102022000000
ヤフーニュース/JIJI.COM 11/29(火) 8:52配信 マスク氏「アップルが脅し」 ツイッター、アプリ排除も https://news.yahoo.co.jp/articles/8b59e7fc992e60eec7fb0e26a802cade6fb9b3ec
そんな中で、宮台真司氏が『イーロンマスクの正義』という内容で、マスクのツイッターに係る行動をどのように理解するかについて発言しているユーチューブ動画(ArcTimes)が出されており、その切り口に興味を持ちました。
Youtube/ArcTimes【宮台真司】イーロンマスクの正義。批判ばかりじゃ何も始まらない
Youtube/ArcTimes ● TheNews11/17スピンオフ ● 【宮台真司の眼②】イーロン・マスクが先端技術を使って次にやりたいこと /ゲスト・宮台真司さん(社会学者) 司会 尾形聡彦✖️望月衣塑子
Youtube/ArcTimes 【宮台真司】Twitter上の感情を正しく可視化せよ!イーロン・マスクの狙いを宮台真司が語る
宮台真司氏が言う『イーロン・マスクの正義』とは?
このYoutubeで宮台氏曰く、
○ マスクは特徴的なまなざし、すなわち、人をアリなどの虫を見るような視線で捉え、この集団(人々)はどこに向かうのかをマクロで見ている。 ○ 社会が完全に二分され、様々な差別思想・ヘイト思考を持つ人々が社会の中に一定の集団を形成して存在している一方で、ツイッターなどのSNS・メディアからはレギュレーションによって排除されている(抑圧されている)。 ○ マスクは恐らく、これらの二分した集団同士の争いをレギュレーションなどで抑圧しようとしても無くならない、つまり考えを変えることにはならない。それをレギュレーションとかポリティカルコレクトネスとかきれいごとを並べて解決したように見せるのは粉飾に過ぎず、そんなものは長続きせず、何も解決しない。 ○ 民主制がリアルワールドでは回っていない、それを回さなければならないと考えるのがイデオロギー・価値観だが、現実問題、回ってないじゃないか、どんどん悪化する一方じゃないか。逃げないでその現実を見ろ、とマスクは言っている。 ○ 解決しようとするのは無理だと社会にわからせるために、それらの争いを可視化させるべく、ツイッターを買収してレギュレーションを解除・開放しているのが、マスクがツイッターを買収して行っていること。 ○ そうすることによってマスクが目指しているのは、テックを使ったゾーニング、これを今後どこか で提案してくるのではないか。もはや分断された集団同士では共通の感情の働きなどは存在し得ないので、考え方を変えて共通の感情を共有することはあきらめよう。解決できないのだから、争わない、解決しようとしない、ゾーニングして違う意見の集団とは交わらないようにしよう、このような社会を、マスクがテックを使って目指そうとしているのではないか。
以上が宮台氏がユーチューブで述べている要旨です。粉飾するのが嫌いなマスクが、現実を可視化させて受け入れて対策を考えよう、としているのを評して宮台氏は彼の『正義』、と呼んでいる様ですが、人間の集団を俯瞰して眺めてみよう(アリを眺めて集団がどっちに行くのか観察する様に)というのは、当方も共感を覚えるところです。
ただ、『ツイッター』『米国』の目線から更に目線を上げてもっと高いところから俯瞰して、『テスラ』『中国』を視界にとらえると、マスクと中国との関係からは、この宮台氏の分析の外側で、マスクがしている行動が更に見えてきます。それと同時に、あれあれっ、とマスクを『正義』と呼ぶことに対しての違和感が湧いてきます。
米国で言論の自由を叫びつつ、言論統制を引く中国にすり寄る二枚舌
アプリストアからツイッターの排除を検討しているとの情報が出ているアップルに対して、マスクは『米国の言論の自由を憎んでいるのか』とアップルを批判している様ですが(その後ティム・クックと和解した様な情報も出ていますが)、一方で、厳しい言論統制を引く中国で、テスラのEV展開のために中国共産党にすり寄るマスクの行動が広く報道されています。
毎日新聞 東京朝刊 2022/11/26 習体制とマスク氏の親和性=坂東賢治 https://mainichi.jp/articles/20221126/ddm/005/070/005000c?cx_fm=mailhiru&cx_ml=article&cx_mdate=20221126
THE ATLANTIC, NOVEMBER 4, 2022 Who’s Really at the Wheel of Tesla in China? https://www.theatlantic.com/international/archive/2022/11/elon-musk-tesla-china-twitter/671982/
テスラの中国でのEV展開目的のために中国共産党の言論統制体制には一切触れずに中国をほめちぎる報道を見ながら、今回のツイッター買収後の混乱と共に『言論の自由』を叫ぶマスクの姿は、究極の二枚舌の損得マシンに見えます。
上記毎日新聞の記事によると、昨年7月の中国共産党100周年を祝う新華社の配信に「中国が成し遂げた経済的繁栄、特にインフラは本当に素晴らしい。ぜひ一度訪れて、自分の目で確かめてほしい」とのリツイートをしたとのこと。また、上記THE ATLANTICの記事では、米中対立のはざまで中国に深入りするマスクの姿を、米国では言論の自由の信奉者であると主張する一方、言論の自由を信じない中国共産党の独裁政権の中国では共産党を喜ばせなければならないと考える、二重人格者、と評されています。
二枚舌のマスクに『一貫性』はあるか?
テスラを巡る中国周辺での言動と、ツイッターを巡る米国内での言動が、まるで一貫性が無いように見えます。この二枚舌のマスクに何か一貫性を見出すことはできるでしょうか?
テックジャイアントであると同時に稀代の錬金術師ともいわれるマスクが、一貫して利己的・損得勘定で動くのであれば理解はたやすいのですが、ツイッター買収後の混乱では広告主の離反を招き収入が激減しているとされており、損得勘定がモチベーションとするならばそれを防ぐような動き方になるはずとも思えますが、マスクはそうは動いていません。
ただ、以下 Forbes JAPANの記事を見たときに、はは~ん、と思ったことがあります。
Forbes JAPAN 政治経済 2022/11/07 16:30 マスクのツイッターが「中国とロシアの言論介入」を招く危険なシナリオ https://forbesjapan.com/articles/detail/51724/1/1/1
記事中の一部を切り抜きますが、
「歴史を振り返れば、権力者や富豪はメディアを利用して、自分たちの利益につながる世論を形成してきた。」
「ケーブルニュースの時代には、ルパート・マードックがFOXを使って世界中の保守政治を再編成した。そして、440億ドル(約6.5兆円)を投じてツイッターを買収したイーロン・マスクも、まもなく彼らの仲間入りをするかもしれない。」
「マスクによるツイッターの買収は、彼が自分のイメージをコントロールし、批判者に対抗したいという欲望の延長線上にある。」
「マスクは、ツイッターがテスラやスペースXのための絶好の宣伝媒体であることに気づいた。」
これらを眺めて改めて納得するのは、やはり、マスクは一貫して、損得勘定で動いているのではないか、ということです。上記THE ATLANTICの記事でも、マスク氏は「中国で成功するには、中国共産党によって書かれた規則と要件に同意する必要がある」と考えている、とされています。ツイッターで言論の自由を広めたい、と言っているのも、テスラ・スペースXなどの損得勘定から使えるツールとして自らの支配下に取り込んでいる過程、と考えると納得がいきます。足元で広告主が離れて収益が激減し経営の危機だとしても、自らの損得勘定に資する形にツイッターを作り替えることができれば、長期的にみてマスク帝国の強化に資する、と見ているということになります。『損得勘定』という強力な一貫性がマスクの芯を貫いていることが見て取れます。
米国世論の分断を煽ることでマスクが得をすること
それでは、マスクが損得マシンだとして、今マスクがツイッターでやっていることは、マスクにとって何が得なのでしょうか?当方には二つの可能性が見て取れます。
一つは、ツイッター社の損得と言うより、マスク個人の思想上の嗜好の問題がモチベーションになっている場合。既に種々批判されている様に、ツイッターアカウントを停止された一部ヘイト思想を含む右寄り言論人の発言を改めて社会に発信して、自らの思想信条を社会で実現させようとしている場合。
もう一つは、宮台氏が言うゾーニングに導くことで、自らのテックでビジネス展開する目的がある場合。宮台氏は、人々の感情を抑圧している現在の規制・レギュレーションを粉飾と考えるマスクは、抑圧されている人々の感情(ヘイトを含む)を表ざたにすることが正義だと考えている、としています。誰が何をしようが、人々の抑圧された感情は解消されない、無くならない感情なのだから、存在を認めて表に出そう、という意味で正義だ、と言っていると当方には聞こえますが、この宮台氏の発言の背景に損得勘定の存在は見えて来ません。
一方のマスクの立ち位置は、宮台氏のそれとは違い、損得勘定が強く一貫してあるものと見て取れます。宮台氏が言う様にマスクがテックによるゾーニングを提案してくる、という展開になるのであれば、正に、マスクは自らの損得勘定起因のテックによるビジネス目的で人々を煽ってゾーニングに、自らが提示するテックによる囲い込みに、追い込もうと考えている様に見えます。アリの集団の行列の横に砂糖で別の道筋をつけて、意図した方向に誘導していく様に。
マスクの狙いが何なのかは、今後マスクがツイッターをどのように扱っていくのかを観察していけばもう少し理解しやすくなると思われます。
究極の『損得マシン』が利用する『法の奴隷』
中国ではテスラのEV展開のために言論統制を引く中国共産党と関係強化を図る一方、米国では言論の自由を叫ぶマスクに見て取れる一貫性は、『損得勘定』と共に『法の奴隷』というキーワードにも見て取れます。
権威主義の中国では、テスラを成功させるために中国共産党にすり寄り、厳しい言論統制がひかれている状況は一切無視して素晴らしいインフラの国と評し、中国での権威主義=法に無条件に従う姿勢を示しています。
一方の民主主義の盟主である米国では、明らかに民主主義の弊害=社会の分断状況=が発生していますが、それを逆手にとって、分断を利用してゾーニングを目的としたテックビジネスを仕掛けていく(=宮台氏の仮説)。
宮台氏の仮説に沿ってマスクが動くとした場合、言論の自由がある米国では言論の自由を使って自分が得するのはどのような社会と彼は考えるでしょうか? 民主主義の慣れの果てで生まれた、もはや感情を共有することは期待できない二分された集団は徹底的に仲たがいさせて、交わることをあきらめさせて、自分のテックを使って閉じ込めよう(テックを使ったビジネスで自分が得をしよう)、ということになるのは容易に想像できます。
一方、権威主義の中国では、テックを使った共産党の国民管理体制・言論統制が完成しており(マスクは、これを評して、インフラが素晴らしい、と言っている)、自分はそのインフラに乗って、自分のテックを使ってビジネス展開して得をしよう、と考えているのは、中国におけるテスラ関連でのマスクの言動を見れば明らかです。
米国でも中国でもどちらでも、その国の制度(法)を徹底的に肯定すること=法の奴隷=で自らのビジネスに結び付ける発想が一貫しているように見えます。そこには、自らの損得勘定を追求する目的で、その国の制度・法の良し悪しは横に置いて、制度に支配される人々(=法の奴隷)を最大限に利用し倒そうとする姿勢が見て取れます。
宮台氏はマスクを評して『正義』という単語を使っていますが、『正義』が損得勘定を抜きにして人としての倫理観に肯定的に作用するものを意味するのであれば、残念ながらマスクの上記のような損得勘定の為に法の奴隷を利用する発想は、正義と評するものとは遠いところにあるように思えます。『正義』が何を意味するのかは、時と場合により人により変化するとするなら、宮台氏がマスクに対して使っている正義は、米国の社会情勢における『公平/フェア』という意味の方が近いというのが当方が感じるところです。差別思想を含む偏った発想を持つ人々の考え方を変えるのが客観的に見て困難と言える状況なら、それを覆い隠してそれがあたかも無いように取り繕うのはフェアではない、という意味として、当方には理解できます。
ただ、人としての倫理観に基づく『正義』からは、マスクはとても遠い存在の様に当方には思えます。宮台氏の言論の中に登場する、『損得マシン』『法の奴隷』の方がマスクには近い様に見えます。究極の錬金術師は、究極の法の奴隷、に見えるのです。
マスクに代表されるテック・ジャイアントが向かうところ
そんなマスクと宮台氏の言動を眺めながら、ネットフリックスで見た『ドント・ルック・アップ』を思い出しました。
『ドント・ルック・アップ』
これも、宮台氏が出演する、神保哲生氏のビデオニュースドットコム・マル激の5金・映画批評で紹介されたことで興味を持って見たものですが、今回こうして考察してみたマスクが、このブラックコメディー映画に出てきたテックジャイアントの姿と重なって仕方がありません。実在の人物・団体をパロディで模した面白いながらも背筋が寒くなるストーリーの映画を見た後は、さすがにそんなことはないよな、と思っていたのですが、今回、こうして最近のマスク氏を考察してみた時、ちょっと待てよ、まさかと思っていたが、、、との思いを抱くようになりました。
宮台氏の言うゾーニングが、具体的にどのようなテックでどのような状態の社会になるのかはなかなか想像しにくいのですが、結局、テックを使ったゾーニングとは、テックをコントロールする(マスクのような)テックジャイアントが、人々をメタバースごとくデジタル世界に誘導する、あるいは誘導されて一度入るとそこから出たくなるのであれば、それはマインドコントロールによる拘束・幽閉、つまり支配されるようになるものと見えます。宮台氏が言うように、マスクがテックによるゾーニングを目指しているとすれば(その目的のためにツイッターを買収したとすれば)、マスクがそうする動機は、彼が損得マシンにしか見えない当方にとっては、マスクの損得勘定が目的と思えます。自分の損得勘定を満たすために、マスクは社会にテックを駆使してくる可能性があるとすれば、こんな怖いことはありません。宮台氏が、マスクは人を集団として(アリの群れがどっちに行くのかを見ているように)眺めている、という観察は、当方にとってはとてもとても恐ろしい意味を有しています。映画の中の話、と思っていたことが、現実に起こりつつある、ということを、背筋がゾクゾクしながら、改めて実感してしまうのです。
果たして、テックに支配されつつある社会で、そんじょそこらの馬の骨に、何ができるのでしょうか? 馬の骨と言えども、人として生まれたからには、考えることはできます。当方も馬の骨ではありますが、あきらめずに考える続けるために、日々世の中を極力高い目線で俯瞰し続けていこうと思っています。
それでは。