=『法の奴隷』を強いる権力・追従する『損得マシン』=
(35) 目次 ・ アマゾンの中国事業の実態を批判するロイター ・ 「ロイターのアマゾン批判」を批判する環球時報 ・ 記事を俯瞰して見えて来る『損得マシン』が『法の奴隷』となる姿 ・ 中国国民に『法の奴隷』を強いる伝道師・環球時報
こんにちは。柳原孝太郎です。
ロイター電子版2021年12月18日付で ”Amazon partnered with China propaganda arm” と題する記事が寄稿され、それに対して中国共産党系メディア・環球時報が2日後の12月20日付電子版の社説で反論しています。Googe翻訳の荒い翻訳でも概略がつかめたので読んでみたのですが、やり取りが面白いので俯瞰して見てみます。
REUTERS アマゾンは中国のプロパガンダ部門と提携 https://www.reuters.com/world/china/amazon-partnered-with-china-propaganda-arm-win-beijings-favor-document-shows-2021-12-17/
環球時報 「陰謀論」は外国企業の中国事業を止められない https://opinion.huanqiu.com/article/463eU22lQnJ
アマゾンの中国事業の実態を批判するロイター
まずロイターの記事ですが、アマゾンが中国でのキンドール端末/電子書籍の販売、およびAWSの中国での事業展開・普及のために、中国政府のプロパガンダに協力している、とのものです。
具体的には、中国共産党系を含む中国書籍を広告・販売する ”China Books” というWEB店舗の展開をすることを条件に、アマゾンは中国内でのビジネスの許可を取得している。またアマゾンの重要な機能であり企業価値の源泉である利用者リビューコメント機能について中国国内で制限をかけている、具体的には共産党系の書籍に対する批判コメントは書き込めない用にしている、つまり言論統制している。これらを通じて中国共産党のプロパガンダの一役を担っている、とされています。
YahooやLenkedIn(MicroSoft)が、同じような中国政府の方針に対して(おそらく企業理念としての表現の自由の確保の観点などから)従えないが為に事業撤退しているのとは対照的に、アマゾンはお金の為に、西側の人権重視・自由尊重の価値観を犠牲にして、中国政府のプロパガンダに加担している、とのものです。
「ロイターのアマゾン批判」を批判する環球時報
そのロイターの記事の2日後、中国の共産党系のメディア・環球時報電子版が、上記ロイター記事を名指しして反論する社説を出しました。環球時報が主張するのは概ね以下の内容です。
1) オンライン上の書評の規制はアマゾンだけを対象としたものではなく、平等にそうさせている。
2) 外資が自国内で事業をする場合、受入国の法律・規制に遵守するのは国際ルール。例えば米国では右側運転、英 国では左側運転で自動車は運転しなければならない。また例えば中国企業が米国内で商業開発する際には、米国政府が商業用地として認めた場所でしか事業ができない。従わないと事業ができないので従っている。
3) アマゾンにとってChinaBookはほんの一部の事業に過ぎず、中国でのアマゾンの事業は順風満帆
4) 欧米メディアは、アマゾンの様な多国籍企業が中国に投資をするのは中国の世界制覇に加担している、という陰謀論を広げて中国を誹謗中傷している
5) 2001年に中国崩壊論が展開されて、米国企業の中国での居場所はなくなるという論説も出たが、結果的にアマゾンの他にもテスラが完全民営企業として中国に進出して、大成功を収めている。中国政府はテスラに技術移転を強要したり、国有化を強制したりしていない。
6) アマゾンとテスラの成功は、中国の改革開放とビジネス環境の改善を示している。米国等の多国籍企業の中国での成功は、中国不透明論を明確に否定するもの。
以上を簡単にまとめると、環球時報(を通じて中国共産党)が言いたいのは、中国では中国の決まりがあるのだからそれに従え、欧米諸国も自国内ビジネスでは自国内規則の適用を求めるではないか、現実として米国の大企業、アマゾンやテスラは自ら望んで中国マーケットに来て、中国の規則に従ってビジネスを展開し大成功しているじゃないか、というものです。
記事を俯瞰して見えて来る『損得マシン』が『法の奴隷』となる姿
この二つの記事の内容には双方とも嘘・偽りはないと見えるし、最近の国際情勢ではよく見る図式の西側世界が中国の権威主義と自由の制限に対抗する姿なのですが、この記事を俯瞰して見えてくるのは、社会学者・宮台真司氏が指摘する『損得マシン』が『法の奴隷』となる姿です。宮台氏の著作の中で、『損得マシン』『法の奴隷』は、『社会の外が消去されたク○社会』で『人間がク△』になっていくとき陥るものの一つとして表現されています。
宮台氏の論点を使うと、ロイターが記事で言っているのは、損得勘定しか考えない『損得マシン』・アマゾンは、正義か否かは封印して、なんでも言う通りに法(中国では法=中国共産党)に従う『法の奴隷』に成り下がっているということです。
それに対する環球時報の反論は、中国でビジネスをするのだから中国の『法の奴隷』になれというもの、法のの奴隷で何が悪いんだ、というものです。
つまり環球時報は、アマゾンが法の奴隷に成り下がっているとのロイターの指摘に反論しているのではなく、法の奴隷になりさがってはダメだと言うロイターに対して、法の奴隷になりたくてなっているのが何がダメなんだ、と反論しているわけです。オレ(中国共産党)が法なんだからオレのいうことを聞け、それでお前ら得してるじゃないか、ということです。
一方でロイターは、YahooやLinkedInは中国共産党との交渉の結果、一部事業撤退していることを取り上げています。これはYahhoやLinkedInは恐らく自らの企業理念から損得勘定を度外視した損得外での正義か否かを判断し、中国の奴隷にならない道を選んだということで、アマゾンとの考え方の差が見て取れます。
法の奴隷に成り下がるところもあれば、損得外の判断で奴隷にはならないと判断するところもある、ということです。ひとえに、その人・企業の考え方、正義感の捉え方の違いです。自由主義を是とするのであれば、何を損得と考えて行動するのかも、その人・企業の自由ということになります。さて、それで良いのですか、ということです。
これは、法律上何も間違ったことはしていないと主張して、姑息に国のお金をかすめとる政治家に見られる考え方・行動に共通するところがあります。
中国国民に『法の奴隷』を強いる伝道師・環球時報
損得マシンに成り下がる法人・個人は後を絶ちません、というか、それが現在の世界中に行き渡る社会システムに見えます。そんな損得マシン・法の奴隷の弱みに付け込んで利用するのは、自らの権力・経済力を駆使して覇権を目指す集団、ここでは人権・自由をないがしろにする権威主義の中国共産党、の常とう手段と言えます。
そういう意味から環球時報(を使って中国共産党)がロイターの記事に素早く反応したのには、意味があるように見えます。つまり、中国共産党の意図は、中国国民をして『法の奴隷』に居続けさせるための中国国民に対するプロパガンダに見えます。ロイターの記事を見る中国国民の意識を損得から出ない様にする試みです。
中国共産党のメッセージは、ロイターの指摘は西側の陰謀であり、中国国民はそんな西側のたわごとには耳を貸さず、中国社会の中で中国共産党のシナリオに乗っていれば得で幸せなのだ、幸せの為には、つまり損をしない為には中国共産党に歯向かってはならないのだ、というものです。
中国国民のマインドコントロールを謀り、中国国民に損得マシン・法の奴隷で居続ける様に必死に努力している姿が見てとれます。環球時報は、その為の伝道師の役割です。
伝道師・環球時報は必至に中国国民の目線を、正義から損得勘定に向けさせようとしているのがわかります。アマゾンやテスラが中国で事業を展開することで中国人にも外資企業側にも大きな経済的なメリットがでている(これは事実)、外国でビジネスをするにあたっては外国の規則に従え(これも事実)、郷に入っては郷に従えというやり方をしているのはアメリカと同じ(これも事実)、これらの事実を並べることで自らの正当性を装い、あたかも損得だけ考えるのが得で正しいのだという論点に集中させ、言論の自由に対する視線を遮断するシナリオを構築しようとしています。
実際問題、陰謀と言うのであれば、中国共産党側が言論封殺をしていることの是非を語ることを一切封殺して、損得議論を持ち出して、中国国民を法(=中国共産党の考え)の奴隷・損得マシンとなるようにマインドコントロールしていること自体が、陰謀以外の何物でもありません。
アマゾンは日本でも日常的なECインフラとなり身近な存在なので、正直、中国共産党の広告エージェントをして言論統制に加担しているとのロイターの記事は、大変残念なものです。ただ、誰しも「生きる上での損得」を完全に無視することはできないことも現実です。アマゾンを一切使わない生活にシフトする、あるいは過去に戻ることを受け入れることは、現実的なオプションとは絶望的です。
そういう意味では中国でも西側諸国でも世界のどこでも、宮台氏が指摘するように「損得勘定から法の奴隷を強いられる社会」に我々が生きているのが現実ですから、いつ何時、好むと好まざるにかかわらず、誰しも生きて行く上でク○社会のク△人間に陥るリスクはあると言えます。
ただ、どんな時でも、損得勘定を超え、正義か否かを感じる損得外の感情が内発的に湧き出て、それはだめだ、と思うことに対しては、損得勘定から完全に外れることはできずに損得勘定に流されて進んでいく中でも、一旦足を止めて、だめだ、と言えるようにしておきたいものです。
ク○社会に生きてはいるが、最低限、ク△人間に陥いらない、そこだけは外さないようにしたいものです。
それでは。
1 thought on “アマゾンの別の顔:中国共産党広告代理店”
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