=国民全体の為に確率を重視し科学的に考える政治に=
<(26)目次> ・ 選挙での『脱原発』という争点 ・ 「原発を明日、来年やめろというつもりは無い」は、脱原発を封印なのか? ・ 『現実的な対応』を俯瞰してみる ・ 立ち位置で変化する現実的な対応 ・ 脱炭素を理由に原発復権に動く利権集団 ・ 国民の為に確率を重視し科学的に考える政治
こんにちは。柳原孝太郎です。
自民党総裁選が始まっています。この後は衆議院選挙を控え、国民にとっては数年に一回の国政を見直す絶好の機会です。マスコミは自民党総裁選一色になり、野党の存在感がどんどん薄れていく状況に見えますが、次の衆議院選挙で政権交代が起きない限り、事実上の次期首相を決める自民党総裁選は誰しも注目します。
総裁選に立候補した岸田文雄氏、高市早苗氏、河野太郎氏はテレビ・ネットで積極的な発言を展開していますが、メディアに踊らされて誰が良いか悪いかを見るのではなく、どんな政策をするのかに関心を持ちたいものです。
今後の選挙での争点・政策に関わる各候補者の発言が報道されていますが、争点のひとつに『脱原発』があります。自民党では少数派である脱原発論者であった河野太郎氏ですが、今回の立候補後の発言が、過去の言動と合わせて注目されています。
選挙での『脱原発』という争点
現在、異常気象が日常になっている地球環境で、人類は環境対策、それと密接に関わるエネルギー対策が死活問題になっています。
環境対策としての脱炭素は世界的なキーワードとなり、2050年のカーボンニュートラルに向けた国際的な取り組みが始まっています。これまで石炭・LNGガスを主原料とする火力発電に依存してきた日本など各国は、脱炭素の為のエネルギー政策、具体的には脱炭素電源をいかにして確保するかが今後数十年の避けられない国家的な課題になります。
脱炭素電源として元々期待されていた原子力発電は、2011年3月の東日本大震災による福島第一原子力発電所爆発事故によってその評価は一変、ドイツ・スイス・イタリアのEU各国の様に早々と脱原発を国家目標として再生可能エネルギーに全面的に舵を切る国もでてきました。一方で、フランス・米国・中国など一部の主要国家の様にそれぞれの国家事情・国家政策から原子力を中長期的な電源構成のひとつとして維持することを想定している国もあります。
さて我が国日本はどうでしょう。福島第一原発事故を起こした張本人ですが、去る7月21日に資源エネルギー庁から発表された第6次エネルギー基本計画(素案)では、2030年の「電源構成の野心的な見通し」として、再生可能エネルギーをそれまでの2-3割から約4割に引き上げる一方、原子力発電はそれまでの約2割を維持する形をとっています。
第6次エネルギー基本計画(素案) 資源エネルギー庁 令和3年7月21日 https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/2021/046/046_004.pdf
日経新聞 脱炭素電源、過半に引き上げ 2030年度へ政府方針 2021年4月23日 23:14 (2021年4月24日 0:18更新) [有料会員限定] https://www.nikkei.com/article/DGXZQODF203JI0Q1A420C2000000/
朝日新聞デジタル記事 「数字合わせできても…」脱炭素電源6割、厳しい道のり 有料会員記事 長崎潤一郎、川村剛志 新田哲史2021年7月21日 21時14分 https://www.asahi.com/articles/ASP7P6SZ4P7PULFA003.html
福島第一原発事故をきっかけとして活動が本格化した脱原発の動きも事故から10年がたち、その後の脱炭素の動きが出たことで、様々な利害関係者が様々な議論を展開し、複雑な方程式を解くような難題となってきています。
そんな中で始まった政局、まずは自民党総裁選。これから様々な政策についての候補者の論戦が本格化していきますが、立候補した河野氏については、過去から自民党内ではめずらしい脱原発派としての強力な発言をしていたことから、立候補表明の記者会見でその言動が注目されました。
「原発を明日、来年やめろというつもりは無い」は、脱原発を封印なのか?
総裁選立候補を踏まえて問われたエネルギー政策についての河野氏の回答が報道されて、その発言が過去の脱原発の自説を封印している、として批判する報道も多く見られます。
ハフポスト日本版 河野太郎氏、原発再稼働を容認する考え示す。「今現在、脱原発派なのか」と問われて答えは…【自民党総裁選】 2021年09月10日 19時21分 https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_613b1c18e4b090b79e826ddb
ヤフーニュース/毎日新聞 河野氏「原発を明日やめろというつもりはない」 党内に懸念に応え 9/8(水) 18:43配信 https://news.yahoo.co.jp/articles/e904e2570f93d0d66275e9e579a53f730e9b3cb5
河野氏の脱原発についての考え方、過去の脱原発論者としての発言はここでは省きますが、今回の総裁選立候補に当たっての質疑応答での発言要旨は、
「原発を明日、来年やめろというつもりはない」
「再生可能エネルギーが最優先だが、カーボンニュートラル実現の為に足りない分は止まっている原発を再稼働するのが現実的」
「原発の新増設は現実的ではない」
というものです。マスコミの一部はこの発言を取り上げて、河野氏は過去脱原発論者であったのに総裁選出馬に伴ってぶれた、過去の発言と整合性がなく無責任だ、自民党内の票取りのために意見を変えて信用ならないなど、批判的な論調が多く見られます。
ただ、この河野氏の発言、およびそれを叩くメディアを俯瞰して見えてくるのは、次の二つのことです。
ひとつは、河野氏の発言は、過去からの自らの脱原発の主張の延長戦上で、総理となって現実的に日本の国家運営を担っていく上では、決しておかしなことは言っていない、ということ。
但し、脱原発と言ってもその最終形とロードマップは様々であろうから、最終的に原発がゼロになる(これも河野氏は発言している)、その日を一日でも早く実現できるように決して手を抜いてはならないということ。
もうひとつは、河野氏の発言を報道するマスコミが、自身の主張を広める為に都合の良い情報の切り取りと誘導を行っている様にしか思えないので、メディアの報道は、改めてうのみにせずに俯瞰してよく全体像を把握しながら読み解く必要がある、ということ。
当方は自民党員でも無いので、自民党総裁選をどうする、河野氏を応援する、しないを言う立場にはありませんが、
『脱炭素と脱原発は、どちらかではなく、両方とも一日も早く実現せねばならない』
と強く思う一人として、河野氏の発言に限らず、マスコミ報道には注意していくべきと改めて思った次第です。
『現実的な対応』を俯瞰してみる
河野氏が言っている、脱原発についての『現実的な対応』について、俯瞰して見ましょう。
福島第一原発事故以降、日本では反原発、脱原発の動きが大規模に展開されるようになり、小泉純一郎元総理、細川護熙元総理など、過去の大物政治家も加わり世論も注目して来ました。
JIJI.COM 「原発ゼロ、今でもやればできる」 小泉元首相インタビュー 2021年07月12日16時57分 https://www.jiji.com/jc/v4?id=202107koizumij0001
JIJI.COM 「原発ゼロ、生きているうちに」~小泉元首相講演~ https://www.jiji.com/jc/v4?id=201606koizumi0001
原発に頼らないエネルギーで支える社会が実現されればそれに越したことは無く、上記の記事で小泉氏も、福島第一原発事故の後、日本で全ての原発が止まっても日本はやって来た、原発ゼロが可能だ、と主張しています。
ただ、ご存じ通りの原発を止める分、日本は火力発電にシフトしており、実態としてはCO2排出によって日本の社会・産業界はエネルギーを調達していることになります。
しかしその後、環境問題が国際的な優先課題となり、脱炭素に向けた具体的な行動をとらねばならない状況になっている、という経緯があります。
俯瞰して見て誰でもわかるのは、原発あるいはCO2を発生させる石炭・LNGガス火力に頼らない電源、すなわち再生可能エネルギーに100%完全にシフトした社会が理想であるということです。ただ現実問題、再生可能エネルギーで100%世界のエネルギー需要をカバーできるような技術が確立できるのは、まだまだ遠い将来のことで、2050年でも100%は無理と言われています。
(もちろん、今後の技術革新でその日が早まる可能性があり、一日でも早い実現に向け、その技術革新の手を緩めない道を歩いていく必要がありますが。)
それが、現実であり、具体的な政策は、その現実を踏まえて計画・策定して実行される必要があります。エネルギーは人間が生きて行くためには欠かすことはできません。いきなり人の生活様式と経済活動を再生可能エネルギーで活動できる水準に落とすことができれば、脱炭素、脱原発を一気に達成することが可能になりますが、その様なことは、とても現実的とは言えません。
現実的とは、正に河野氏が最近問われて発言したことに沿った、以下の内容になるのではないでしょうか。
・明日、来年、原発ゼロにはできない。
・再生可能エネルギーを最優先に考えるが、再生可能エネルギーで100%カバーが可能になるまでは、他の電源に頼らざるを得ない。
・再生可能エネルギーで100%カバーできる時期の目標を設定して、その日が一日でも前倒しができるように、政官業一体となり、必要な財政出動を含めて計画、ロードマップを策定して取り組む。
・炭素由来を減らす計画、原子力を減らす計画、それぞれを策定するが、両方ともゼロにする時期を具体的に目標設定して取り組み、一日でも前倒しをすべく手を緩めない。
立ち位置で変化する「現実的な対応」
さて、日本の「第6次エネルギー基本計画(素案)」に戻ってみると、一見すると現実的に見えるものの、あれっ、という違和感を覚えます。つまり、上述した様に、将来いつの日か、炭素及び原子力由来の電源をゼロにする日を実現することを前提とすべきであるのにそうはなっておらず、原子力は将来的に維持されることを前提としています。
「福島第一原発事故の経験、反省と教訓を肝に銘じながら」「安全を最優先」と言いつつ、結局、「可能な限り原発依存度を低減する」との結論になっています。つまり、逆に言うと、一定の比率を保ったまま、止めない、ということです。
福島第一原発事故で改めて原子力がコントロール不能であることが明らかになったにも関わらず、また上記記事で小泉元総理の発言にあるとおり、結局原発は放射性廃棄物を生み、人体に致命的な悪影響を与える汚染物質は今後10万年単位で消えずに地球上に残る。どこがクリーンなのか、と言う電源であるのに、政府(資源エネルギー庁)は、安全を最優先に考えるのであれば当然出てくるであろう結論、つまり、将来的に原発をゼロにする、という結論を放棄しています。
一般の国民とは違う立ち位置から現実を捻じ曲げようとしており、詭弁を弄しているに過ぎません。
今できる現実的な対応で始めて進むロードマップも、将来の目標を原発ゼロにするか、一定の原発を維持するかでは、翻って今現実的な対応をするために書いていく計画も、全く異なったものになります。将来のありたい姿をあいまいにしたまま計画を書いていくのは避けねばならず、国民、有権者も、目を皿にして政府・官僚の言動を監視していかねばなりません。
脱炭素を理由に原発復権に動く利権集団
福島第一原発事故が発生したことを受けて、それを教訓としてドイツなどの様に脱原発に舵を切る国が出てきているのに、張本人の日本は、現在の政府・官庁は詭弁を弄して、将来的にも脱原発に向かうとはしていません。
一般国民・有権者は、この考え方は普通に理解できません。
なぜこのような理不尽に思える行動になるのでしょうか。
そこには、日本を牛耳る政治家・官僚・業界・マスコミ・学者の5者連合『原発村』の存在が指摘されています。
日本原発の「安全神話」の崩壊:原発産業の研究 著者名(日) 中野 洋一 雑誌名 九州国際大学国際関係学論集 発行年 2011-09 九州国際大学学術成果リポジトリ - 九州国際大学学術成果リポジトリ (nii.ac.jp)
BUSINESS INSIDER カーボンニュートラルの陰で進む原発復権。「最大限活用」と転換した霞が関の論理 前田 雄大 [EnergyShift発行人兼統括編集長] Apr. 30, 2021, 06:00 AM NEWS https://www.businessinsider.jp/post-234005
つまり、原発をネタに利益を得ている集団、原発利権集団なのですが、ただ5者の顔ぶれを見てわかる通り、ほぼ日本の国家運営を担うトップエリート集団が全て含まれています。
東日本大震災・福島第一原発事故という歴史的な大惨事に見舞われても尚、原発が無くなると自らが享受している利益・利権も同時に無くなってしまう日本で最高の頭脳集団が、5者の一角を占めるマスコミを使って、国民・有権者を騙して丸め込もうとしてくる構図です。
そんな中で、利権集団が科学を捻じ曲げて国民を騙して原発推進を図っているのではと不信に思ってしまうような事件も起こっています。
時事ドットコムニュース 規制委、敦賀原発の審査中断 地質データ書き換えで 2021年08月18日17時53分 https://www.jiji.com/jc/article?k=2021081800552&g=soc
一般有権者・国民は良心的なマスコミの力を得ながら、重大な関心を持って監視していく必要があります。その上で、国家が誤った方向に進まないように介入すべきは介入していかないといけませんが、一般国民に何ができるでしょうか?
可能なことはそう、選挙で国民の為に動いてくれる政治家を選ぶことです。個別利権集団の為だけの利益誘導をするのではなく、真に国民の安全を最優先して、国民全体の利益の為に国家運営をしてくれる政治家に政権に就いてもらうべく、投票をすることです。
国民全体の為に確率を重視し科学的に考える政治に
原発村5者連合の利権集団は、日本トップの頭脳集団です。特に官僚が業界と一体となってあの手この手で政治家を操り、一般の国民を後回しにして、自らの利権を守るシナリオを書いて国家運営を私物化していこうとします。
福島第一原発事故で失いかけた自らの利権を、最近のカーボンニュートラル・脱炭素の世界的な動きを逆手にとって、原発復権の動きを仕掛けているのは明らかです。
日本商工会議所 第6次エネルギー基本計画(素案)について意見陳述 2021年8月 2日 09:52 https://www.jcci.or.jp/news/2021/0802095213.html
この商工会議所の意見陳述には、「カーボンニュートラル実現を見据えれば、(原発の)リプレース・新増設、運転期間の見直し(長期化)、設備利用率の向上が必要」との意見が出てきます。
経団連を筆頭とする経済界、民間企業でも原発事業で収益を上げている企業は非常にすそ野が広く、その企業の従業員や所在地の地方自治体など広範にわたるため、こうした原発存続を望む一定の声は消えることはありません。
しかし、これら一部の利益集団に、自らもそこから利益を得て利権化している政治家・官僚が一緒になり、これまた利権集団の一部であるマスコミを使って自らの利権を存続させるための情報操作をするのは、他の大多数の一般国民は黙っているわけにはいきません。
我々一般の国民は、あくまで現実的に、国民全体の為に何が安全で何が利益なのかを考えて政府に行動をしてもらわないといけません。
現実的には、脱炭素の為には止まっている原発の再稼働が必要なのかもしれませんが、上述記事に出て来た駿河原発の地質データ書き換えの様な、意図的な情報操作をするような動きは徹底的に監視してつぶしていかねばなりません。
また、将来的な目標も、『脱炭素』と共に明確に『脱原発』を掲げ、それを達成するX-DAYを決めて、そこに至る為に可能な国家のリソースを全てつぎ込むロードマップを作成させることが大変重要です。
原子力に依存しない2050年脱炭素の実現に向けての意見書 日本弁護士連合会 2021年6月18日 https://www.nichibenren.or.jp/document/opinion/year/2021/210618.html
今回の資源エネルギー庁の「第6次エネルギー基本計画(素案)」の様な脱炭素を利用した原発の復権を目指したシナリオは直ぐに書き換え、原発の再稼働は脱炭素を達成するために再生可能エネルギーでエネルギー需要を100%カバーできるようになるまでのあくまでつなぎ役、としての位置付けを明確にし、将来的な『原発ゼロ』をロードマップと共に謳わなければなりません。
やはり何より重要であると思うのは、国民全体の為に何が良いのかを、確率を重視して科学的に考えて、国民・有権者の意見を諮った上で論理的に決めて実行する、そういう国民が理解できる政治を実現して欲しいということです。
科学的に考えると、CO2を排出して地球温暖化を進める石炭・LNG火力発電は地球環境を破壊するので、他の発電方法を具体化させて切り替えて、一刻も早くやめなければならない。
科学的に考えると、人体に致命的な影響を与える放射性廃棄物を排出する原子力発電は、地球環境に悪影響を及ぼすので、他の発電方法を具体化させて切り替えて、一刻も早くやめなければならない。
科学的に考えると、再生可能エネルギーは発電技術、発電コスト、発電規模を合わせた総合的な発電能力は、まだまだ他従来型発電に比べると効率は悪いものの、将来にわたる新技術の開発と政府の政策介入により、解決する可能性が存在している。
このように一部の利権集団の為だけではなく国民全体の為に何が良いのかを前提に、科学的に考えて確率を重視して国民が理解できる形で決めて実行する政府になる様、次の衆議院選挙では国民としてできること、渾身の一票を投じたいものです。
それでは。