=自分を冷静に見つめる目線が描く自分のストーリー=
<目次(20)> ・ 他の選手とは違う空気 ・ 金メダル会見で見せたアッと驚く人生のストーリー ・ 明るい性格に同居する冷静に自分を見つめる目線 ・ 自分を俯瞰する力で人生を謳歌する人達
こんにちは。柳原孝太郎です。
東京オリンピックが終わっても尚、オリンピックロスが尾を引いている当方ですが、今回のオリンピックを振り返ったとき、他の選手とは違う空気感に包まれたある選手が記憶に残りました。そう、ボクシング女子フェザー級で金メダルを獲得した入江聖奈選手です。
他の選手とは違う空気
ボクシング女子フェザー級決勝戦の試合会場に笑顔で楽しそうに入場する入江選手に他の選手とは違う空気感を感じたのは当方だけでは無いと思います。
4年に一度のオリンピック、特に今回は地元東京での開催にも関わらず新型コロナのパンデミックに直面して複雑な国民感情を背景に開催も危ぶまれた中で一年延期した上での開催という、特別な状況下でのオリンピックです。開催前は新型コロナ対応の不手際で不満が募る国民感情がオリンピック反対派の声を煽る異様な雰囲気になり、出場する各選手も複雑な思いを抱えても不思議ではありません。そんな中、笑顔でわくわく感を満開にさせて決勝戦の舞台に登場した入江選手の空気感は、持前の明るさだけではない他の選手とは違う何かがありました。それが何なのかは、金メダル獲得後の入江選手の言動から見て取れることになるのですが。
無観客での決勝戦を5-0の判定で制した入江選手を称える対戦相手のネスティ・ペテシオ選手(フィリピン)の笑顔も晴れやかで、何とも清々しい金メダルマッチとなりました。
朝日新聞Digital 敗れたペテシオ、笑顔で入江聖奈たたえる 試合後に流した涙の理由 8/3(火) 17:42配信 https://news.yahoo.co.jp/articles/e3cf01817b28d26818008a8b5a4aaed59cede9fe
金メダル会見で見せたアッと驚く人生のストーリー
見事な金メダル獲得後に一躍時の人となった入江選手はメディアでもその独特のキャラクターと合わせて注目されるようになりました。小学校二年の時に漫画家小山ゆう氏作の『がんばれ元気』を読んで憧れてボクシングを始めたこと、カエル好きであること、ゲーマーであること、競技中に審判に礼儀正しくペコリとお辞儀する態度など、金メダルを取った実力だけでなくその人柄を表す言動が伝えられましたが、やはり一番衝撃的だったのは、次のオリンピックパリ大会に向けての決意を聞かれた入江選手が、ケロリと(どこかのメディアがカエル好きをもじってそう記載していて面白かったので使わせて貰います)いとも簡単に大学卒業での引退宣言をしたことでした。
えっ、金メダルなのに若くして引退?と当方もさすがにびっくりしてしまいました。
入江選手はまだ20歳、成人したばかりで人生これからです。例えば女子フィギュアスケートの様に競技人としてのピークを20歳前で迎えるのが世界の常識になっている競技と違い、ボクシングは決勝戦の相手のペテシオ選手が29歳ということからもわかる通り、20歳という入江選手の年齢はまだまだ世界トップレベルで戦い続けることが可能な年齢と言えます。
今回の東京オリンピック体操競技男子個人総合で金メダルを獲得した橋本大輝選手は19歳、入江選手と同年代です。橋本選手は金メダル獲得後に今後の目標を聞かれて、内村航平選手が持つオリンピック個人総合2連覇を破る3連覇が目標だと公言しています。オリンピックで金メダルを取るレベルでその競技を極めている人は、その競技に自分の人生をかけているとも言え、橋本選手の様に若くして頂点に立ったら、トップの位置を続けて更に極めていきたいという思いは当然出てくると思います。
明るい性格に同居する冷静に自分を見つめる目線
ところが、今回金メダルを獲得した20歳の入江選手は、ボクシング活動は大学生で終わりにしてパリオリンピックは目指さないと、あっさりと引退宣言(予告)をしました。(大学在学中に開催される次の世界選手権が最後の目標となりそうです。)
最初引退と聞いた時にはさすがにびっくりしましたが、その後、この人面白いと思ってメディアでの入江選手の発言を注目していたところ、以下の様なやり取りが見て取れました。
質問) なぜパリを目指さないのか? 入江) 有終の美を飾りたいと思っている。大学を卒業して社会人になってボクシングを続けると、どこでやめたら良いのか、やめ時がわからない。パリで負けて終わるとカッコ悪いですよね。
質問)引退後どうするのか? 入江)カエルが好きなので、カエル関係の就職先を調べているのだが見つからなない。仕方ないのでゲーム好きなこともありゲーム関係で就活したいと思っている。
質問)ボクシングで顔を殴られて痛くないのか? 入江)アマチュアボクシングはグローブが厚いので見たほど痛くない、ぜんぜん痛くない。今回自分が金メダルを取ったことで女の子がボクシングに興味を持って始めてくれる子が増えると嬉しい。
質問)受け答え見ていると面白い、テレビでバラエティに出るタレントやったら? 入江)自分は頭の回転が悪いので無理。
そんなやり取りを見ていて、当方が入江選手に感じていた明るさだけではない何か特別な空気感が何なのかがわかってきました。
入江選手は自分のことをとても良く見ている。そう思いました。
自分が何を思っているのか、何をやりたいのか。そう思う自分が存在する周辺環境全体を眺めて、客観的に自分に何ができるのか、いつまでできるのか、できなくなったら次に何がしたいのか、それら全体をしっかりと俯瞰している。その上でそういう自分の気持ちと自分の周辺環境をとても素直に受け入れている。そういう姿が当方には見て取れました。
オリンピックで金メダルを争う様なレベルまである競技で自分を高めることができれば、自分の人生をその競技に捧げようと考えても不思議ではありません。
そういう高いレベルの身体能力・精神力は、ごく限られた人しか手にすることができない貴重な能力であり、そのような能力を持って生まれて来た人をとてもうらやましく思います。そんな能力が得られて、自分の人生をその分野で、現役選手としてまた現役を終えた後は後輩達に自己の能力と経験を伝える指導者の立場で注力することができたら、そんな素晴らしい人生はありません。
しかし、入江選手は自分の人生のストーリーを別の書き方をすることを選んだ様なのです。自分は若くしてオリンピックで金メダルを取れたが、自分を俯瞰して見たとき、それは自分の人生の1ページであると理解する。自分の人生を考えた時、ボクシング以外にも興味のあることがある。ボクシングは将来いつか辞める時が来る。いつ辞めるか。辞めた後に自分の人生、何をするか。それらを考えた時の入江選手の答えは、オリンピックは東京オリンピックの金メダルが最後、というストーリーにすることでした。
入江選手は、自分の人生を自分で考えて自分で歩んで行きたい、そんな自律思考で進んでいる姿が手に取る様にわかりました。とても好感が持てます。
(自律思考を大事にする!は ↓ )
自分を俯瞰する力で人生を謳歌する人達
前述した日本の体操競技のレジェンド・内村航平選手。個人総合でロンドン・リオとオリンピック二連覇した世界のレジェンドですがその後、3連覇を目指してスタートを切った矢先に大ケガに見舞われ、個人総合を断念して種目別・鉄棒一本に絞った今回の東京オリンピック。残念ながら予選敗退の結果となりましたが、オリンピック前後の内村選手の言動もまた注目を集めました。大けがをして3連覇が難しくなった後、得意の鉄棒一本に絞ってでも実現したかった自分自身のオリンピックストーリー。自分の人生をオリンピックにかけてとことん極めて行きたいという自分の気持ちに向き合った真摯な姿が日本国民の心を捉えて離しません。
鉄棒一本に絞ってオリンピックに参加する自分の役割について聞かれ、過去二連覇をした自分が団体戦チームのベンチに座ってオリンピック初参加のメンバーの気持ちを支える重要性を語り、また種目別鉄棒敗退後のインタビューで、自分は過去個人総合を二連覇したがそれはもはや過去で今の主役は若い選手たちと語り、今回現役選手としての出場ながら、今後の日本の体操界の若手を高みへと導いていく良き指導者としての風格を既に漂わせ始めている姿。
そこには、自分の体操に向き合う気持ちを素直に見つめて、自分が過去成し遂げたこととそれを成し遂げた自分が現在そして今後の体操界に存在する意味を俯瞰して、自律思考で自分の人生を追いかけていくストーリーが見て取れます。
内村選手の様に自分の競技へとことん自分の人生の時間を費やそうとする姿と、入江選手の様に自分の競技を自分の人生の1ページと割り切って時間を区切って次のストーリーを書き始めようとする姿。同じ金メダリストでも競技へ取り組む時間軸とスタンスは違いますが、どちらも自分の人生を自分で考えて行動していく、自律思考・自律行動の姿が見て取れます。
自分で考えて自分で行動し自分の人生を謳歌する若い人の姿を見るのはとても気持ちがいいです。新型コロナの中でのオリンピックという、有事のオリンピックの開催方法としては果たしてこれで良かったのかとの疑問は拭えませんが、オリンピックに出る選手には運営側とは全く別の純粋なストーリーがあります。
オリンピックを見る意味は、オリンピック利権に群がる利権者・政治家の醜い姿ではなく、オリンピックに人生の一時をささげるアスリートの純粋な気持ちに触れることにあると思います。自律思考で進む若い人の純粋な気持ちは益々応援したいと思った、そんな今回の東京オリンピックなのでした。
それでは。