=「北風は太陽に勝てない」ことを予感させる中国人の姿=
<目次(18)> ・中国の覇権主義と国際情勢不安 ・五輪が見せてくれる国を超えて交流する人の姿 ・中国の若者が思うこと ・結局、北風は太陽に勝てない
こんにちは。柳原孝太郎です。
新型コロナ感染急拡大の中で続く東京オリンピック、家で五輪中継を見ながら連日の日本選手の大活躍に興奮していますが、ネットでも様々なニュースが配信されています。その中で中国体操選手の記事に目が止まりました。
日経新聞 中国選手「過度な攻撃やめて」 体操・橋本への中傷念頭か 2021年7月30日 21:54 https://www.nikkei.com/article/DGXZQODH30DPK0Q1A730C2000000/
現在の国際社会でその覇権主義的行動が民主主義陣営の国々に不安と警戒心を巻き起こしている中国ですが、オリンピックは中国の若者の素顔は我々とあまり変わりないと言う、
当たり前のことを改めて思い起こさせてくれます。
中国の覇権主義と国際情勢不安
現在はオリンピックとコロナの話題でメディアが溢れ他のニュースは影を潜めていますが、7月1日に共産党創立100周年の記念式典を行った中国。その覇権主義的な行動は近年益々拍車がかかり、自由主義国家の人々に不安と警戒心を呼び起こしています。
香港では国家安全維持法を制定して1997年の返還の際に国際社会に約束した香港の自由をいとも簡単に抹殺し、新疆ウィグル自治区では人権を蹂躙して中国化政策を強要しジェノサイドだとして国際的な非難を受け、また南シナ海ではただの岩礁を埋め立てて人工島を建設して領土だと称して強引な領土拡大を画策しています。共産党支配の中国の権益を軍事力と経済力で世界に拡大する動きを進めているわけですが、相対的な力が弱体化している米国はもはや単独で対抗する力も意思も持たず、国際社会で連帯して中国の覇権に対峙する必要性が益々叫ばれるようになっています。
そんな中で当方は中国という国名が出ただけで、メディアが政治色の強い報道で中国を叩くことを目にするのが多いこともあってか今度はどういう理不尽な行動をしているのかという偏見目線で情報を見るようになっています。その延長戦上で「中国人」と言われても、普段中国人と接する機会の無い普通の日本人は、普通の中国人、市井の中国人が見えにくくなっています。
共産党独裁の国で普通の中国人は何を思って生きているのだろうという観点で、生の中国の市井の人の声を聴く機会は多くはありません。
五輪が見せてくれる国を超えて交流する人の姿
そんな中で今回のオリンピックでの上述中国体操競技の肖若騰選手。7月28日の体操・個人総合での最終演技の鉄棒で橋本大輝選手がほぼ完ぺきな演技を見せて金メダルを決めた後、肖若騰選手のところに行ってお互いの健闘を称えあう場面がありました。とてもすがすがしい光景で、これぞオリンピックという場面でした。中国と聞くとなんでもかんでも身構えて情報を見ることが多くなっていた当方もとても新鮮な感覚を覚えました。オリンピック選手は誰もが国家を代表して自国の威信と個人の名誉をかけて戦っている最前線の戦士たちですが、戦いを終えて検討をたたえあう彼らの姿は、人と人がスポーツを通じて国を超えて交流し合う素顔を垣間見せてくれました。
ただ、そんなオリンピックならではの一シーンに感動を覚えていたのもつかの間、その後SNSでの橋本選手に対する中国ユーザーの誹謗中傷が始まりました。一瞬忘れていた国際政治の舞台で中国との軋轢が繰り広げられる日常に引き戻される思いでしたが、そこに登場したのが誹謗中傷を控えて欲しいという肖若騰選手のSNSでの発言でした。そこには国を超えて純粋に同じ目標を追い求めてきたアスリートとしての連帯感の様な絆があることが見て取れ、国を超えてひとりの人としてのストーリーを追い求める純粋な気持ちを感じることができます。
そんな場面は、卓球でも見て取ることができました。
NHK NEWSWEB オリンピック 伊藤美誠と孫穎莎 2人のライバル物語 2021/7/31 https://www3.nhk.or.jp/news/special/2020news/special/article_20210731_01.html
伊東美馬選手と孫穎莎はまだ共に20歳、たまたま生まれた国は日本と中国という別の国ですが、これから何年にもわたって人としての純粋な気持ちで勝負していく姿を見ていくことができそうで、とても楽しみにしています。
中国の若者が思うこと
そんなオリンピックという特別な舞台を通して見て取れる若い人の純粋な気持ち、人として自分のストーリーを追いかける姿を見ながら、独裁体制の中国という国で生きている一般の中国人、若い人達は日々どんな思いで生きているのだろうということが気になり、ネット検索をしてみたところ、以下の記事が目にとまりました。
東洋経済オンライン 2021/07/02 5:20 「共産党100周年」中国の若者達が語る党への本音 20代が考える入党のメリットとデメリット https://toyokeizai.net/articles/-/438115
日本に住んでいると中国の情報は日本メディアが報じる政治的なものが中心になりますから、どうしても中国の覇権主義的な行動を批判的に報じるものを多く目にすることになり、中国の市井の人が何を考えどう暮らしているのかに触れる機会がありません。その様な中でこの記事のような生の中国人の声は大変興味深いです。
改めてなるほどと思ったのは、共産党が社会を安定させる基盤になっている中国で、共産党をひとつの社会システムと捉えて、一人の人として生きる自分と共産党との距離感を自分なりに取りながら自律思考で考えて生きている若い人の姿です。
ある人は、共産党に特に関心は無いものの優秀であるが故に党員になったが自分の人生(外資系IT業界で競争して生きている)には共産党は特にメリットがないので、党員であるにも関わらず共産党に対してはまったく無関心で生きていくストーリー。
ある人は、共産党とは距離を置いた民間の世界で競争しようと思ったがあまりに民間での競争が激しいので競争から退き、安定を求めて共産党に近づいて共産党のメリットを最大限に生かして生きて行こうとするストーリー。
ある人は、自分の就職やキャリアの為に党員ステータスが役に立つので最初から党員になろうとするストーリー。
ある人は、親の経験から共産党から遠ざかる道を選び、自分の人生を海外に求めて国を出ていくストーリー。
そして、国の大多数を占める共産党員になれない市井の人は、上級国民である共産党員との距離を取って冷めた目で社会を眺めて「寝そべり族」になっていくストーリー。
JIJIドットコムニュース>ワールドEYE 「寝そべり主義」 中国の若者に広がる諦め感 2021年06月24日17時44分 https://www.jiji.com/jc/article?k=20210624041700a&g=afp
これらの記事を見ただけでも中国人の考え方はそれぞれの生きる環境の違いから様々ですから、実際の市井の中国人にはそれこそ千差万別のストーリーがあることが容易に想像できます。
結局、北風は太陽に勝てない
国際情勢の中で覇権主義を拡大している中国ですが、オリンピックでの中国選手の純粋な思いに駆られる言動を見たり、メディアで垣間見られる市井の中国人の本音に触れたりすると、国際社会で見せる覇権主義で牙をむく共産党の姿は中国人のごく一部の人の『権力に忠誠を誓った』人達のストーリーに過ぎないことが見て取れます。
(『権力への忠誠心』については、当方ブログ(6)参照)
共産党のごく一部の人達が握っている絶対的な権力で支配されている中国は総人口14憶人、うち共産党員は1億人足らず、更に以下の記事では、最近の中国の若者は共産党離れが進んでいるということが書かれています。
日経新聞 中国共産党、30歳以下が13.2%と過去最低に 2021年6月30日 20:11 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM308IY0Q1A630C2000000/
人が考えること、特に若者の感性は世代が変わると共に目まぐるしく変化しますので、当然自分が住む国での自分の政治・社会との関わり方も変わって行きます。
ただ残念ながら中国では1989年の天安門事件は未だにメディアから抹殺されて過去の事実が認められておらず、昨年の香港国家安全法制定で自由に発言する人を弾圧する力は弱まるどころか、更に拍車がかかっている状況に見えます。
日本という自由主義の国で生まれ育った当方は、人として自分の脳が紡ぎ出すアルゴリズムで自律思考で自分で考え自分で行動したいと強く思います。そういう思考・行動に制限をかけられている中国の様な独裁体制の国に生まれなくて良かったと、心の底から思います。共産党の方針に沿わない言動が禁止されている中国人は、よくそんな状態が続いていることを人として我慢できるな、と思いますが、これからも未来永劫、我慢し続けられるのでしょうか。
「北風と太陽」というイソップ寓話がありますが、当方のお気に入りです。人の脳の働きが人にどういう行動をさせるのか、という点で人間の本質を突いています。当方もこれまでの経験で痛感させられるのは、結局「北風は太陽には勝てない」ということです。
人口の1割にも満たない北風・共産党は、力づくで残りの9割以上の中国人を支配し続けることができるでしょうか?
いいえ、やはり北風は太陽には勝てないのではないでしょうか。
なぜならそれは、人が動物である限り、脳が紡ぎ出すアルゴリズム、本能は基本的には変わらないと思うからです。人はやはり、自分で思ったことを言いたい、考えたことを実行したい。力で押さえつけ続けるのは、無理があります。
ただ、時間の問題はあります。5年、10年で大きな変化を期待するのは無理かもしれませんが、古い世代の共産党幹部がいなくなり、世代交代をしていくなかで、共産党の若手が考えることも当然変わっていくのではないでしょうか。
国際情勢の中で覇権主義を拡大している中国に対しては、自由主義陣営は自由と平和を守るために協力して対峙していく力を緩めることはできませんが、世界は将来どうなるのかと考える時、オリンピックや他報道で中国の若者たちから垣間見える、人は国に関わらず変わりないという当たり前の姿は、結局北風は太陽には勝てない、そんな姿を期待してしまいます。
暑くなれば自分自身で服を脱ぎたくなる。人に自ら自律的に行動を起こさせるのは、北風ではなく、太陽にしかできません。人は自分で考えて自分で行動したい、自律思考・自律行動したい動物なのです。
それでは。