BSから見える『お金のしくみ』
★Ⅰ.馬の骨でもわかる『BSのしくみ』
【3】資産増減の類型
1.ストック自己増殖・自己減少 <★★★今回はココ★★★>
★Ⅱ.馬の骨でもわかる『お金のしくみ』
★Ⅲ.BSから見える『財政破綻とは何か?』
★Ⅳ.BSから見える『成長とは何か?』
前回、資産の増減は、<ストック/フロー> X <単体/相対> の組み合わせで類型化ができる、という話をしました。
これをケース分けすると、資産増減は以下の4つに大別できます。
❶ ストック X 単体 【ストック自己増減】
❷ ストック X 相対 【ストック間移動】
❸ フロー X 単体 【自己フロー投入】
❹ フロー X 相対 【外部フロー投入】
今回からは、これをひとつずつ見ていきます。今回は、❶ストックX単体【ストック自己増減】についてです。
Ⅰ.【3】1.ストック自己増殖・自己減少
「ストック X 単体【ストック自己増減】」をもう少しかみ砕いて言うと、他者の資産と一切関与の無い中で、1当事者の資産が、フロー投入無しに瞬時に増減する、ということです。(*1)
ではこれは具体的にはどういうことなのか、例を挙げて見てみます。
ストックの自己増殖
ストックが自己増殖するとはどういうことでしょうか?他の人(法人を含む)との資産のやり取りは一切なく、自らの資産が増加するということです。人から奪ったり、贈与をうけたり、というのはすべて、他の人の資産との相対関係が発生しますので、これらの他の人の資産との関与があるケースは一切除き、自らの資産が増加する例を挙げてみます。(*1)
①雨が降り、水を獲得する
降ってきた雨を貯めて、自らの資産として活用することは可能です。雨は、他の人/法人とは一切関係がありませんので、これは資産の自己増殖にあたります。
②野生の動植物を捕獲・採集する
山を歩いていた時、偶然、野生の鹿(他の人/法人のものではない)が横切ったため、素手で捉えました。鹿は食料にしたり、鹿を欲しい人に売ったりすることができますので、資産価値があります。
また、同様に山を歩いてた時、偶然道の横に生えていた野生の木(他の人/法人のものではない)の実を採りました。木の実は食料になりますので、資産です。
これら野生の動植物は、他の人/法人の持ち物ではないので、それらを獲得することで瞬時に資産が自己増殖したことになります。
③未開の土地・鉱物資源を占有する
未開の地を開拓していた時、ある土地を占有しました。またその土地には金山があり、金塊が掘れることがわかりました。未開の地なので、他の人/法人/国家のものではないので、占有したら実体としてその土地・金山、そこから採集できる金塊は、占有した人が所有したことになります。他の人/法人/国家の資産に影響を与えることなく、自らの資産が自己増殖したことになります。
ストックの自己減少
次に、自己増殖の逆のケース、自己減少を見てみます。
④ 貯蔵していた水が蒸発する
自己増殖①の逆のケースです。貯めていた雨水が日照り続きで蒸発して減少すると、資産が減ることになります。これは、自分の資産が他の人/法人/国家に移動しておらず、単純に自らの資産が減少していることになるので、自己減少である、と捉えます。
⑤ 捕獲・採集した野生の動植物が死滅・腐敗して食べられなくなる
自己増殖②の逆のケースです。捕獲していた鹿が死んでしまう、あるいは、木の実が腐ってしまい、食べられなくなりました。食料としての価値があった動植物は食べられなくなると資産価値がなくなり、資産が減少します。これは、他の人/法人/国家に資産が移動したわけではありませんので、資産の自己減少と言えます。
⑥ 占有していた土地・鉱物資源を放棄・紛失する
自己増殖③の逆のケースであると同時に、①②(雨水・動植物等)にも適用が可能です。
占有していた土地を、放棄して移転すると、占有が解除されます。つまり、その土地はその人の資産項目から除外され、未占有の状態になり、他の人/法人/国家の所有にわたるわけではないとすると、単純に資産の自己減少と捉えられます。
また、占有した金山から掘り出した金塊を、船で輸送中に、海中に落としてしまいました。海の底なので回収できません。これは、単純な紛失であり、当該資産が他の人/法人/国家に移転したわけではないので、資産の自己減少と捉えられます。
ストック自己増減は自然との相対関係で発生する
上記で見た①~⑥はすべて、人が自然(未開の地/未占有の天然資源/野生の動植物等)を相手にすることから発生しています。他の人(法人/国家を含む)との関与無しにストックが瞬時に増減するということは、全て対象が自然(未開の地/未占有の天然資源/野生の動植物等)である、と言えることがわかります。
自己増殖の①②③はすべて、自然資産を自らの資産に取り込んでいる、すなわち、「自然資産の自己資産化」と言えます。
まとめ
今回のまとめです。資産増減の大項目 <【Ⅰ】ストック自己増減> における、資産減少・資産増加の類型は以下の通りです。
・資産減少の類型 : ①-自己減少
・資産増加の類型 : ①+自己増殖
ここで、今後、資産増減を類型化して表していく際のルールを説明しておきます。①は類型の番号を、①の後についている、- あるいは + は、減少には - を、増加には + をつけています。今後類型化の説明を進めていくと、その意味は理解できると思います。
フロー投入があるか、無いか
上記で記載した資産増減の例のうち、②野生の動植物を捕獲・採集する、について、「フロー自己投入」との境界線が少しあいまい、どちらにも解釈できるとも言えますので、最後に少しこの点に触れます。
「山を歩いていた時、偶然、野生の鹿(他の人/法人のものではない)が横切ったため、素手で捉えた。」
という場合には、資産の移動は、偶然鹿が横切った時に瞬時に素手で捉えることで、瞬時に資産増加が発生・完了しており、フローの投入があったとは言えません。
ただ、同じケースで少しだけ背景を加えて、以下の状況だったとしたらどうでしょうか?
「食料を確保するために、私は鹿を採ることにし、鹿が生息している山に入り、鹿を探し、鹿を見つけたので鹿を追いかけ、格闘の末、鹿を捕獲した」
この場合、単純なストックの交換というより、「狩猟」という生産活動(生産フロー)の為に、労働力をフロー投入している、つまり、後日記載する「フロー自己投入」のひとつの類型である、生産フロー投入である、と表現することも可能です。
この後も資産増減の類型を順に見ていきますが、斯様に解釈によって類型が変わる、グレーゾーンが存在します。できる限り客観的に俯瞰して全体像をフェアに捉えて類型化するように努めますが、書きながら修正が必要と言う場合には、都度修正を加えながら書き進めて行くことがある点は、ご容赦お願いします。
次回は、<ストック X 相対>、つまり「ストック間移動」について書きます。
それでは。
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(補足)
*1 対象領域を、人(含む法人)に限らず、自然(地球、日本列島等)も当事者として含む場合、当事者としての自然の資産の増減が議論の対象に含まれます。つまり、複数当事者間の相対関係の類型での議論をすることになります。