=集団(運営組織)と個(アスリート)は分けて考える=
<目次(19)> ・ 「五輪を開催して良かった」が60%を超える意味 ・ 「手のひら返し」と批判する人が勘違いしていること ・ メディアの毒に対抗する為に自らを毒化させる悪循環 ・ 集団と個は分けて考える ・ 未来のオリンピックに期待するもの
こんにちは。柳原孝太郎です。
新型コロナ感染症真っ只中で開催された東京オリンピック。開催される前はいったいこんな状況でオリンピックができるのだろうかという不思議な感覚に襲われていたまま開会式を迎え、あっという間の17日間が過ぎ、8月8日(日)の閉会式で幕を閉じました。
当方もテレビで日本人選手の大活躍に心を奪われたままで終末を迎え、オリンピックロスで心にぽっかり穴が開いた感覚です。
そんな折、メディアも五輪後のモードに戻りつつある中でテレビを見ていたら「五輪を開催してよかったか?」という質問を見かけました。ただ、その質問に何とも言えない違和感を覚えたのは、当方だけでしょうか?この違和感はどこから来たのでしょうか?
「五輪開催して良かった」が60%を超える意味
上記の質問は、フジテレビ8月8日(日)朝の「日曜報道 THE PRIME」の放送中にやっていた視聴者アンケートだったのですが、結果は「良かった」が64%でした。
ネットで他にも同様なアンケートが無いか検索したところ複数出ていますが、以下はその一つでこちらも「良かった」「どちらかと言えば良かった」が合わせて61%となっています。
ヤフーニュース/TBSニュース JNN世論調査、五輪開催「よかった」61% 内閣支持は過去最低 8/9(月) 6:00配信 https://news.yahoo.co.jp/articles/dfc5f32bd628ba32d589ebe46e26ff27a21b3183
当方自身はオリンピックで選手の大活躍を堪能しましたので、本当に良かったと思いましたが、この質問の背景には言うまでもない、足元で感染爆発と言える悪化を辿る新型コロナ感染症の存在があります。当方が感じた違和感は、この質問に対して当方自身、どちらとも言えない、という感覚があったからだと思います。選手の活躍自体を否定する要素は何ひとつ無いものの、新型コロナという有事の状態でこの質問は無いだろう、という違和感でした。
ただ、この質問に対する視聴者の回答はどのニュースソースでもおおむね「良かった」が60%を超えています。それだけ日本人選手の活躍で日本国民全体が癒されたということです。これだけ様々なアスリートの躍動をライブで見ることができたのはかけがえのない体験であったことは間違いありません。一方で、別のニュースソースが追加質問をしていた「安心安全な大会だったか」という問いに対しては半数以上が「そうは思わない」と回答しています。それはそうです、オリンピックと並行して過去最大の感染爆発が発生しているのですから。
オリンピックを開催して良かったが60%を超えているのは、あくまで選手の活躍に対するものです。オリンピック運営あるいはそれをバックアップしていた政府に対する国民感情は、新型コロナ感染症の状況を考えると、別のものとなります。五輪後の菅政権の支持率は過去最低を更新しています。
ブルームバーグ 東京五輪「成功」も菅内閣の支持率が続落-朝日調査では30%割れ 広川高史 2021年8月10日 13:04 JST https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-08-10/QXLMLET1UM0W01
「手のひら返し」と批判する人が勘違いしていること
一方、オリンピック開催期間中にマスコミが日本選手の大活躍を報じたことに対し、開催前は声高に五輪の中止・延期を言っていた人たちが「手のひら返し」で選手の活躍を報道するのは何事か、という論調もよく見られました。
ヤフーニュース/東スポWEB 〝手のひら返し〟第1号・宮根誠司の五輪大はしゃぎにネット民は冷めた視線 7/27(火) 5:15配信 https://news.yahoo.co.jp/articles/f66ba75cc4663e125150d6eafef86db8b94c935c
ヤフーニュース/中日スポーツ 東京五輪メダルラッシュで「手のひら返し」トレンド入り 民放各局の姿勢疑問視「玉川氏も嬉しそうに」 7/26(月) 9:53配信 https://news.yahoo.co.jp/articles/e926fdbc84f2219345846b234a72fc1a3c3a0179
新型コロナウィルス感染拡大の中での世界から人が集まるオリンピックは誰しも不安に思います。開催するのであれば安心・安全な体制を構築すべきであるのに、それを怠るのであれば、国民、マスコミは当然批判することになります。
ただ、開催までの経緯は横に置いておくとして、一旦開催されたら、日本人選手はオリンピックに参加するし、ベストを尽くします。その結果、大活躍したら、国民はその活躍は知りたいので、マスコミには報道して欲しい。マスコミも当然報道する。報道される日本人選手の大活躍を見て、国民は血沸き肉躍る。
コロナは不安だがオリンピック選手の活躍は見たい。何がいけないのでしょうか?
当方には至極当然のことと思えます。
「手のひら返しだ」と言っている人がいるとすれば、それは現政権の五輪運営を擁護してきた立場の人達と思いますが、彼らが勘違いをしていることがあります。
今回の五輪開催前に国民・マスコミが叩き続けたのは、安心・安全な五輪を開催する為にやるべきことをやっていない国・東京都・IOC・組織委員会であり、アスリートではありません。五輪に関与する人達は複数いますが、それぞれの目的とストーリーは異なっています。
(ステークホルダーによって違う五輪の意味と目的 ↓ )
「手のひら返し」で言えば、開催前にアスリートに対してコロナ下での五輪なんかには出場するなと言っていた人が、開催したとたんに活躍するアスリートを応援する、そういう事態が起こればそれは手のひら返しと言えるでしょう。ただ、そのようなケースはあまり見たことはありません。
メディアの毒に対抗する為に自らを毒化させる悪循環
テレビに出てくるコメンテーター各位も「手のひら返し」といわれることに苦慮しているのが見て取れます。
ヤフーニュース/デイリースポーツ 立川志らく五輪感想聞かれ「手のひら返しと言われ難しい」恵俊彰「選手の活躍伝える」 7/21(水) 17:22配信 https://news.yahoo.co.jp/articles/77e22c0ef2d654abb0f836c4eae5e6cf8c4b89f7
田村淳 @atsushilonboo
マスメディアに登場する立場の人々は自分がネット・メディアに叩かれる場合の対応を色々考えねばならず大変だな、と思うのと同時に、自分がオリンピック開催の感染症対策不備に異議を申し立てたが故に自国の選手の活躍を素直に喜べない複雑な心境に陥っているのを見ると、非常に残念でなりません。
どこからどんな球が飛んで来るかわからないネット・メディアの毒に対抗する為に、自らを毒化させているという悪循環に見えます。
有名人の宿命と言えるのでしょうが、アスリートに対してオリンピックに出るなと言っている人は見たことがなく、叩いていたのは運営側であるIOC・組織委員会・政府・東京都のはずです。アスリートは運営者とは別です。
集団と個は分けて考える
我々が見たいのは、純粋にアスリートが世界のひのき舞台で活躍する姿です。ビジネスをする立場の人がスポンサーとか設備資材サービス提供で五輪に関わる場合もあるでしょうが、それ以外の一般国民にとっては、税金も投入される公共事業で世界平和のシンボルです。運営側は黒子に徹してアスリートファーストでアスリートのことを最優先に考えて行動して欲しいのですが、残念ながら、オリンピックは世界的な巨大利権に利用されるものになってしまっています。
新型コロナ感染症が拡大しているいわば有事の中でのオリンピックは、オリンピック利権を追求する集団が開催国の感染状況に重大な悪影響を及ぼさないのかという目線でしっかりと運営側の行動を監視する必要があるのは言うまでもありません。そういう観点で運営側の問題点は至る所で指摘されており、国民が五輪の運営側に厳しい目線を向けるのは当然と言えますが、ただ、アスリートは別です。「五輪がコロナに悪影響を与える」という漠然としたもの言いで、アスリートもその一部としてアスリートに厳しい視線を向け、せっかくの五輪で活躍する選手に関心を持たない・持てないのは、親の罪で子供をいじめて無視するような、そんな理不尽さを当方は感じてしまいます。
未来のオリンピックに期待するもの
今回のオリンピックで当方が何より一番感動したのは、五輪本番ではなく、日本の予選会の一場面でした。新型コロナの第三波に日本中がおびえて、五輪が開催されるかどうかわからなかった2020年12月13日に東京・講道館で行われた柔道66kg級の代表決定戦・阿部一二三対丸山城志郎の一戦でした。
スポルティーバ 阿部一二三と丸山城志郎の死闘 勝敗を分けた2度のブレイクタイム 柳川悠二●文 text by Yanagawa Yujiphoto by Kyodo News 2020.12.14 https://sportiva.shueisha.co.jp/clm/othersports/fight/2020/12/14/___split_26/index.php
感染症対策で無観客、会場にも両者の関係者と審判団しか居ない静寂に包まれた異様な雰囲気でピンと張った空気の中で行われた24分間の死闘。両者のそれまでの人生をすべてぶつけ合った世紀の対決、こんな戦いは見たことありませんでした。コロナの影響で無観客だったことがかえって二人の存在を大きく浮き立たせることになり、当方がライブで見たスポーツの中で生涯忘れないであろうものの一つとなりました。極限まで単純化された環境で観客も声援も全く不要、二人の思いだけがガチンコでぶつかり合う様を見た時、「有事でも開催するオリンピック」の意味を見た思いがしました。
次回のオリンピックは2024年のパリ大会、文字通りコロナを完全に克服し復活した世界で大観衆に囲まれた盛大なイベントを見ることも期待はするのですが、今回の東京五輪開催に至るまでの経緯でやはり五輪の背後にある巨大利権の姿が見えてしまった今となっては、五輪の本当の意味を改めて考える様になりました。
産経新聞 橋本会長、バッハ会長の登場で選手ら続々退場 五輪閉会式 2021/8/8 22:29 https://www.sankei.com/article/20210808-OBL6RYKRG5LP3PKQVFLPGSFXO4/?outputType=theme_tokyo2020
スポニチアネックス 前園真聖 河村市長のかみつき「理解できない」とバッサリ 表敬訪問は「行政の人から足を運ぶべき」 2021年8月8日 11:18 https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2021/08/08/kiji/20210808s00041000276000c.html
自らの私的利益の為に利用することを企てる利権集団・政治家に荒らされない純粋な五輪の舞台を見て見たいと思うのは当方だけでしょうか。
心ある世界の大富豪の誰かが「IOC Bチーム」を編成して、バッハを筆頭とする現五輪利権集団をスルーして、真の世界平和の祭典としてのオリンピックが開催されるのを見れる日は来ないものかと、そんなことを思ってしまうのでした。
それでは。
1 thought on “五輪報道は「手のひら返し」か? ”
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