BSから見える『お金のしくみ』
★Ⅰ.馬の骨でもわかる『BSのしくみ』
★Ⅱ.馬の骨でもわかる『お金のしくみ』
【1】貨幣の機能
3.物々交換における貨幣的機能 <★★★今回はココ★★★>
★Ⅲ.BSから見える『財政破綻とは何か?』
★Ⅳ.BSから見える『成長とは何か?』
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<本稿のイイタイコト>
Ⅱ.馬の骨でもわかる『お金のしくみ』
【1】貨幣の機能 3.物々交換における貨幣的機能
<物々交換が生み出した『信用』『金利』>
・物々交換の経済活動は、自給自足の経済活動の延長線上で、相対関係の構築による物品の
交換から開始される。
・物々交換の経済活動の類型(資産増減の類型)は、自給自足における単体系の類型に加えて、
以下の相対系の類型がある。
◆ストックx相対:【Ⅱ】ストック間移動 ②交換 ③流出 ④贈与
◆フローx相対 :【Ⅳ】外部フロー投入 ⑦貸借フロー ⑧投資フロー
・物々交換における貨幣的機能は『物品』が果たしている。
・物々交換において『同時交換』が『非同期交換』に変容することで『貸借』の類型が
形成される。
・物々交換における『貸借』類型の形成を起点に、現在の貨幣経済の中心的機能である
『信用』及び『利息(金利)』の概念が発生する。
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前回は、貨幣が無かった時代の貨幣的機能を俯瞰する一回目として、貨幣以前の二つの経済形態のうちのひとつ、『自給自足』における貨幣的機能を見てみました。今回はもうひとつの『物々交換』時代の貨幣的機能を見てみることにします。
『相対関係』構築から始まる『交換経済』
まず一点確認しておきたいのは、本稿は歴史的事実を確認してそれを検証する手法を取るものではありません。もし仮に人類の経済活動を一から始めるとしたら、貨幣(及び貨幣的なもの)はどのような機能・役割を果たせるのか、BSのしくみを使って確かめてみる、という思考実験です。よって、本稿で書くことが実際に歴史上発生していた事実かどうかは一切関知していませんので、この点はご容赦ください。
その前提で、前回は自給自足における貨幣的機能を確認しました。例として、漁師の自給自足で検証してみましたが、もちろん、漁師以外にも、山で獣を獲って暮らす狩人や、平地で農作物を栽培して食料を得ている農民など、様々な自給自足の形態があります。ただ、自給自足にとどまっている限り、他経済主体との経済交流は発生しておらず、それぞれが自らの自給自足経済の中で自立して暮らしています。
自給自足で暮らす人が集団になり人口が増え、活動範囲が広がっていくと、当然、異なった経済主体の間で接触が起こります。つまり、それまでの『単体』としての活動から『相対関係』が構築され、その前提での経済活動が始まります。
『相対関係』における経済活動の類型(資産増減の類型)は、<相対xストック>の『【Ⅱ】ストック間移動』、及び、<相対xフロー>の『【Ⅳ】外部フロー投入』の二通りがあります。物々交換においてこの二つの資産増減類型が発生しているか、発生しているならどの様に発生しているかを見てみます。
※資産増減類型『【Ⅱ】ストック間移動』及び『【Ⅳ】外部フロー投入』については以下参照。
まず、『【Ⅱ】ストック間移動』は、文字通り物々交換経済における代表的類型であることが理解できます。漁師・狩人の例で見てみましょう。
魚しか食べたことが無い漁師は、狩人との交流を始めると、狩人が自分が食べたことがない獣を食べて暮らしていることを知ります。当然、食べたことがない獣を食べてみたい、という欲がでてきます。逆の立場で、狩人は食べたことがない魚を食べてみたくなります。
漁師・狩人ともに様々なタイプの人・集団がいるでしょうから、中には動物的に暴力を行使して相手の食料を強奪するケースが発生することもあるでしょうが、平和的・協力的な漁師・狩人の接触・交流が始まると、自らの食料を相手の食料と交換する『物々交換』経済が開始されることになります。
漁師と狩人が魚と獣を交換するタイプの物々交換経済の資産増減類型は、『【Ⅱ】ストック間移動』の代表類型『②交換』であることが容易に理解できます。
また、その派生類型として、暴力による強奪やあるいは盗難のような『【Ⅱ】ストック間移動③流出(喪失/取得)』や、人的交流が深化した結果としての『【Ⅱ】ストック間移動④贈与(供与/享受)』が登場することも理解できます。
『非同期交換』が生む『貸借フロー』
物々交換では『【Ⅱ】ストック間移動』が発生していることを理解するのはあまり難しくありませんが、『【Ⅳ】外部フロー投入』はどうでしょうか?
まず、『【Ⅳ】外部フロー投入』の二つの類型のうちのひとつ、『⑦貸借フロー』について、次のケースで見てみます。
漁師と狩人は物々交換経済で暮らしていましたが、ある時、漁師は天候悪化で海が荒れて魚を獲りに行けず、魚が足りなくなって困っていました。一方の狩人は豊猟が続き、獣の在庫(剰余)に余裕があります。
漁師は、食料不足を補うため狩人の獣が欲しいのですが、交換する魚はありません。天候悪化はしばらく収まりそうもなく、海に魚を獲りにいくことはできません。
そこで漁師は狩人に、「天候が回復した後、漁に出て魚が獲れたら必ず魚を渡すので、今、獣を分けて欲しい」とお願いしました。それまで漁師と物々交換を続けていた狩人は、漁師が後で魚を渡すという話には嘘はない、と信用することにし、後で魚を渡してもらうことを前提に、先に獣を渡すことにしました。
ここで、資産増減の類型に変化が発生していることが見てとれます。すなわち、『②交換』は、双方の物品を同時に相手に渡す『同時交換』を前提としていますが、一方の物品譲渡を先に実施し、反対給付を一定期間後に実施する『非同期交換』に変容することになります。これは、先に物品を渡し(貸与し)、後で返してもらう(物品が異なるが)という、『⑦貸借フロー』の類型に変化したと捉えることが可能です。
『【Ⅱ】ストック間移動②交換』は、『同時交換』が『非同期交換』に変化することにより、『【Ⅳ】外部フロー投入⑦貸借フロー』に切り替わったと判断できます。
先に獣を渡してもらった漁師は、嵐が過ぎるまでその獣で労働力/生命力を維持/再生し(⑤消費フロー)、嵐が上がった後に再生した労働力を漁に投入し(⑥事業フロー)、自らの食料確保と共に狩人に返す魚を獲得します。
十分な魚を確保した漁師は、先に渡してもらっていた獣と引き換えに、魚を渡します。これは『⑦貸借フローの後半/返却の類型』であると捉えられます。
以上見てきた通り、物々交換において『同時交換』が『非同期交換』に変化することにより、『【Ⅳ】外部フロー投入⑦貸借フロー』が形成されることがわかります。
物々交換で『投資フロー』はあるか?
『【Ⅳ】外部フロー投入』のうち、『⑦貸借フロー』については物々交換経済で発生することがわかりました。では、もうひとつの『⑧投資フロー』についてはどうでしょうか?
まず、貸借フローと投資フローの違いを再確認しておきましょう。『⑦貸借フロー』『⑧投資フロー』では共に『相対対生成』により『権利/義務』が発生しますが、『義務』の発生場所が異なります。すなわち、『⑦貸借フロー』では『義務』が『負債』に発生するのに対し、『⑧投資フロー』では『純資産』に発生します。
物々交換において、相対対生成で発生する義務が純資産に属するケースが想定できるかについては、当方1人の思考力では結論めいたものを出すことができませんでした。
そこで、Chattyくんの力を借りることにしました。
その結果、物々交換で『⑧投資フロー』も発生可能、という結論に至りました。その例として、「古代エジプトの土地授与制度」を使って説明します。Chattyくんの検討ベースの出力を参考までに以下共有します。
※物々交換における投資フローの例
https://chatgpt.com/share/675e7138-7cfc-800e-ad61-efc12ff2e985
※「古代エジプトの土地授与制度」が投資フローの一類型であるとの判断根拠
https://chatgpt.com/share/675e80d3-066c-800e-899c-fc2ff7ffdabf
では、Chattyくんとの会話により、古代エジプトの土地授与制度が投資フローの類型に該当するという結論に至った経緯を説明します。
まず、古代エジプトでは領土は基本的にファラオの専有物でした(*1)。
ファラオは国を安定的に統治するために、軍人/官僚の忠誠心を維持することが大事でした。そのため、軍人/官僚の忠誠心に応える目的で領土の一部を与え、その代わりにファラオへの忠誠、国への奉仕、租税の支払いを求めました。
土地を授与された軍人/官僚は、ファラオに対する一定の義務を果たす代わりに、土地を自由に運用する権利(資産)を得ました。この権利には貸借の様に返却する義務はなく、また義務である奉仕の内容も裁量の幅があるため、この土地の移動(授与)は貸借フローではなく、投資フローとしての扱いが妥当であると判断されます。
古代エジプトの土地授与制度は一例にすぎませんが、貨幣経済以前の物々交換経済時代にも、『【Ⅳ】外部フロー投入⑧投資フロー』が発生することが理解できます。
物々交換における貨幣的機能
物々交換における経済活動類型(資産増減の類型)が確認できました。自給自足において既に機能している『【Ⅰ】ストック自己増減』『【Ⅲ】自己フロー投入』に加え、『【Ⅱ】ストック間移動』『【Ⅳ】外部フロー投入』が機能していることがわかりました。すなわち、貨幣経済以前の段階(自給自足・物々交換)で既に、当方が掲げている『資産増減の類型』のすべてが網羅されています。
※資産増減の類型については以下参照。
さてここで、物々交換経済における資産増減の類型を参考に、そこにおける貨幣的機能(交換尺度・交換媒体・価値保存)は何かについてついて俯瞰してみます。結果として、物々交換における3つの貨幣的機能を果たしているものは『物品』であることが見て取れます。これはあまり議論する必要はないと考えますので、物々交換において物品が3つの貨幣的機能をどのように果たしているのかを以下のとおり図示しておきます。
★価値尺度
★交換媒体
★価値保存
『貸借』と共に生まれる『信用』
物々交換における資産増減の類型及び貨幣的機能が確認できました。これらを前提に更に思考を加えてみると、貨幣及び貨幣経済の中心的な機能が、物々交換時代に既に発生していることが確認できます。
まず、現在の貨幣経済の中心的な機能のひとつ、『信用』が物々交換時代に生まれていることがわかります。
『②交換』において『同時交換』が『非同期交換』に変容することで『⑦貸借フロー』が生み出されていることを使い、そのことを俯瞰してみます。
貸借フローが発生したのは、物々交換において『同時交換』が『非同期交換』に変容したことがきっかけでした。先述の漁師と狩人の例で言うと、魚が獲れなくて困っている漁師が狩人に助けを求め、狩人が漁師を助けた、という構図です。狩人が後で魚を受取ることを前提に、先に漁師に獣を渡す行動を起こした根底には、漁師は後で必ず約束を守ってくれるという『信用』の概念が存在していることがわかります。
狩人は、漁師が後で魚を渡してくれる(獣の借りを魚で返してくれる)ことを『信用』しなければ、結局損するかもしれない「先に獣を渡す」という行動は決して起こしません。つまり、資産移動は発生しません。
『貸借フロー』が起動し、資産移動が発生するには、『信用』が必要条件となっていることが見て取れます。言い替えると、貨幣経済以前の物々交換時代に、『貸借フロー』を通じて『信用経済』が開始された、と捉えることができます。
貸借フローにより信用経済が開始される姿をもう少し理解しやすく一般化してみます。
以下にAとBの二者がいます。Aは労働力/生命力以外の資産/純資産は保有していない一方、Bは労働力/生命力以外の資産を保有しています(ここでは資産は一般化して資産内容には踏み込みません)。
Aは資産を保有していないので、資産運用のきっかけとなる原初資産を手に入れるため、資産を保有するBに資産を貸してくれるように依頼します。依頼の前提は、『資産運用して資産を増やした後に必ず後で資産を返すので信用して!』、つまり『信用して!』という口頭による依頼がすべてです。
BはAを信用することにしました。すなわち、BはAを信用して、自らの資産の一部を貸与します。ここで、貸借フローが開始されます。貸借フローの開始と同時に、相対対生成により権利/義務が発生、Aは債務と共に資産を手に入れます。
この『信用』開始によりAとBの資産がどのように変化したのか見てみましょう。
Aは、元々労働力/生命力以外の資産はゼロでしたが、『信用経済』の開始により、Bの資産を借用し、借用資産分だけ総資産を増加させることができました。
一方のBは、『信用経済』開始後は、資産内容の変動がありましたが、総資産額には変動ありません。
以上をまとめてみましょう。まず、『同時交換』を『非同期交換』に変容させる動機が発生し、その動機が『信用』の概念を生み出します。『信用』が『貸借フロー』を起動し、『貸借フロー』が『相対対生成』により『権利/義務』を発生させます。そして、『権利/義務』が『義務者の資産を増加』させる効果を生み出します。
すなわち、信用されることに成功した義務者(A)は、自らの総資産額を増加させること、成長することが可能になることが理解できます。
さてここで、ひとつ疑問が生じます。Bは総資産額が変わらないのに、『信用経済』を開始する意味があるでしょうか?
実はここから、『利息(金利)』の概念が発生することが見て取れます。
『信用』から発生する『利息(金利)』
さて、『信用経済』の発生により、Aは総資産額を増加させて、資産運用してさらに資産を増加させるきっかけを得ました。一方で、Bはこのままでは総資産額を増やすことができず、信用経済を始める意味がありません。
そこでBは、信用する見返りをAに求めることになります。それが、『利息(金利)』の概念を生み出すことになります。
Bから見返りを要求されたAは、Bから資産を借用するために、借用した資産の返済に加えて、信用してくれた分(時間猶予を与えてくれた分)の追加資産を渡すことに同意しました。この追加資産分が利息相当分に当たります。
その後、Aは借用資産を運用して、利息分も含めた借用資産以上の資産を獲得するために、借用資産を投資フロー(⑤消費フロー/⑥事業フロー)に投入/回収します。
自己フロー投入で資産を増加させたAは、Bへの債務を返済します。具体的には借用していた元本資産と利息分の資産をBに返済します。
Aは、Bへの返済によりBに対する債務が解消されます。
一方のBは、Aから元本返済に加えて利息の支払いを受けた結果、利息分だけ、信用前に比べて資産総額を増加させることができました。
まとめ
このように俯瞰してみると、貨幣経済の中心的な機能である『信用』『利息』の概念は、実は既に物々交換時代に発生していることが見て取れます。
最後に、『物々交換』において『同時交換』を『非同期交換』に変容させる動機が生じることで『信用』の概念が登場し、『信用』が『貸借フロー』を起動してその中で『利息』が機能することで、物々交換経済参加者の資産を増加させている経緯をまとめて図示しておきます。
今回の投稿は以上です。これで、『Ⅱ.馬の骨でもわかる『お金のしくみ』【1】貨幣の機能』の投稿は一区切りをつけます。
『Ⅱ.【2】貨幣の類型』は、目次ページに基本事項の図表・Chattyくん出力を上げていますので記事は今後時間があるときに書くことにして、次回からはいよいよ、『Ⅱ.【3】貨幣発行の類型』に入ります。
『貨幣の本質』を『BSのしくみ』を使って見ていくと言う、当方が本来やりたかった本丸の部分にようやく着手できます。これまでの投稿はいわば準備段階であり、これから書いていくことをうまく説明していくためのしくみづくりをしていたにすぎません。これからが本番です、どのように書いて行こうか、今から楽しみです。
それでは。
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(補足)
*1 ファラオのBSの計上科目については、領土以外の資産は多岐に渡り記載すると煩雑になるため、労働力(生命力)以外は記載していません。固定資産など他資産はすべて源泉は労働力の投入により取得しているとの前提で、領土と源泉資産である労働力(生命力)から投資フローを俯瞰しています。