BSから見える『お金のしくみ』
★Ⅰ.馬の骨でもわかる『BSのしくみ』
★Ⅱ.馬の骨でもわかる『お金のしくみ』
【3】貨幣発行の類型
1.自給自足 <★★★今回はココ(2)★★★>
★Ⅲ.BSから見える『財政破綻とは何か?』
★Ⅳ.BSから見える『成長とは何か?』
Ⅱ.【3】1.自給自足経済の「貨幣的なもの」
前回、自給自足経済の後は物々交換について書きますとお伝えしましたが、自給自足経済について補足をしたい点があり、今回も自給自足経済の続きです。
Ⅱ.【3】では、「貨幣発行の類型」と題して、過去の歴史的な経済体制における貨幣はどのように発行されているのかを俯瞰して見ることを目的としています。自給自足経済は貨幣発行前ですから当然貨幣は存在しませんでしたが、貨幣の無い中で、貨幣の機能を果たしているのはどんなものあったのか、自給自足経済における「貨幣的なもの」とは何か、また、その貨幣的なものがどのように発行/発生していたのか、俯瞰して見てみることにしてみます。
貨幣の機能①交換媒体
「Ⅱ.【2】貨幣の機能」では、3つの貨幣の機能について見ています(*1)。それぞれの機能は、自給自足経済においてどのように表れているのか見てみます。
まず、機能の一つ目、「交換媒体」の機能についてです。貨幣経済における貨幣の交換媒体の機能は、以下のイメージで表されます。
つまり、自分が欲しいものを手にいれるために、代わりに相手に渡すもの、交換媒体としての機能を貨幣は持っています。
貨幣が無かった自給自足経済においては、自分が欲しいもの、生きていくために必要な食料は、自分で手に入れる、具体的には自分の労働力を投入して、狩りをする、釣りをする、農業をするなどを通じて、食料を手に入れています。自分が欲しい食料を手に入れるために、自分の労働力を交換している、という表現が可能です。つまり、交換媒体は労働力、ということになります。
貨幣経済と自給自足それぞれにおける交換媒体を並べてみると以下のイメージで、貨幣と労働力が同じ位置づけ・機能を有していると言えることがわかります。
貨幣の機能②価値尺度
次に、貨幣の機能の二番目である、「価値尺度」です。
貨幣経済においては、貨幣を価値尺度として利用することで、経済活動に登場する要素=以下のイメージでは食料と労働力=の価値の量を比較することができます。これは経済活動に参加する人々がモノ・サービスを交換する際に、交換する量を相対的に確定できる、それにより、経済活動がとてもスムーズに循環するこを可能にしています。
上記のイメージでは、食料40㎏を獲得するために必要な労働力は10人(貨幣量としては20貨幣単位)、という定量的な判断ができます(*2)。それにより、経済活動の見通しがしやすくなり、効率化されるという効果があります。
一方、貨幣が無かった自給自足においては、欲しいもの(食料)を手に入れるために必要な労働力の量は、貨幣を経由せずとも直接的・経験的に、計測することは可能です。つまり、必要なモノ・サービスの一定量に対応する相対的な量(価値尺度)として、労働力を対応させることが可能です。
一方で、相対関係を前提とするため、対象物と価値尺度を入れ替えることが可能と言えます。食料を対象物とする場合の価値尺度としての労働力(食料40㎏を手に入れる為に必要な労働力はどのくらいか)、または、労働力を対象とする場合の価値尺度としての食料(労働力10人分を再生産させるために必要な食料はどのくらいか)、という関係がどちらも成り立ちます。相対関係において、対象物はどちらか(反対側が価値尺度)を、個別の相対関係毎に決めることができます。
貨幣の機能③価値保存
貨幣の機能の3番目は、「価値保存」です。
貨幣経済では、貨幣が流通する中で価値が貨幣の形で保存され、保存された貨幣を再度フローに投入することで経済活動がどんどん活発になります。
保存された貨幣は、再度フローに投入されることで、更なる剰余価値を生み更に保存され、それがまた再度フローに投入され、という循環を繰り返し、結果的に経済が成長していくことになります。
一方、自給自足経済では、貨幣経済における価値保存の機能は、どのように発揮されているでしょうか?自給自足経済での循環を俯瞰しながら見てみます。
まず、自分たちの集団が「労働力10人分」という資産を保有しているとします。そこから労働力をフローに投入(海に魚を獲りに行く、山に獣を狩りに行く等)し、食料を得ます。ここでは、10人分の労働力を投入した結果、40㎏の食料を獲得できたとします。結果使用した労働力は、回復(食料摂取・睡眠)が必要です。
ここでは、10人分の労働力の回復には、食料20㎏の摂取が必要であるとします。獲得した食料40㎏のうち、20㎏を10人で消費することで、労働力を回復、元に戻りました。
その結果、当初(期初)の労働力10人分の資産保有に加え、食料20㎏分が、余剰価値として蓄積、保存されました。労働力を投入して得られた価値(食料)のうち、20㎏分が価値保存されたことになります。
こうしてみると、自給自足においては、「食料」が価値保存の機能を果たしているということがわかります。
自給自足における「貨幣的なもの」
自給自足において、貨幣的な機能を果たしているものを見て来ましたが、整理すると、以下の通りになります。
・『交換媒体』としての機能:「労働力」
・『価値尺度』としての機能:「労働力」または「食料」
・『価値保存』としての機能:「食料」
「貨幣的なもの」の発行(獲得/回復)の類型
自給自足における貨幣的なものは、「労働力」および「食料」であることが確認できました。自給自足において労働力と食料がどのように発生/獲得/回復(貨幣経済における貨幣発行)しているのか?貨幣発行の類型と比較する為に、自給自足における「貨幣的なもの」である「労働力」「食料」の発生/獲得/回復の類型を見てみます。
・労働力の獲得①:既存労働力の回復
フロー投入されて減衰した既存人員の労働力を回復するには、食料消費をします(*3)。
食料をフロー投入(資産減の類型=③’消費)し、労働力を回復/獲得(資産増の類型=③獲得=)する、ということになります。
・労働力の獲得②:出生による人口増
出生が増え人口が増加すると労働力も増えます。出生による人口増加は、資産増の類型では、「⑥自己増殖」になります。人口増によって追加の労働力を獲得できますが、人口増加の為には、新生児が死亡しないだけの、余剰食糧を確保/保存できていることが必要です。
十分な余剰食糧は、新生児を追加の労働力に育てます。追加の労働力は、生産投入することで更なる余剰食糧の獲得を可能にし、それが更なる自己増殖・人口増を生む、という人口増のサイクルとなります。
・食料の獲得
自給自足において食料を獲得するには、労働力の投入が必要です。海に漁に出る、山に狩りに行く、農作物を育てる、牛を飼育する、などすべて、人が自然に労働力を投入することで食料を獲得しています。自然に自生している食料(動植物)を、労働力を投入して捕獲・収穫するか、自然に労働力を投入することで栽培・飼育するか、方法は複数ありますが、全て人が労働力を投入することで実現できます。
農業・飼育への労働力投入は「③’c 生産」ですが、漁・狩猟による捕獲、及び自生植物の採集についても、狩猟・採集活動を生産活動と捉えて、ここではこれらも「③’c生産」として、ひとまとめで表現をすることにします。
・強奪
他集団を攻撃して力による支配で他集団の労働力あるいは食料を強奪し、自集団に加えることでも、自集団の貨幣的なものを増加させることが可能です。現代社会・法治国家の元では許容されるものではありませんが、人類の歴史の中では過去頻繁に起こっていたことです。
強奪の為の労働力の行使(暴力)は、フロー投入の類型(投資投入・生産投入・消費投入)とは別のものと考えて、ここでは暴力の行使はフロー投入とは考えないことにします。ただ単に、人の資産を喪失させ、自分の資産に瞬時に移し替えるだけの、ストック上での行為であると捉えました。
自給自足における特徴
以上、自給自足における「貨幣的なもの」の発生類型を見てきましたが、その特徴は、資産をフロー投入して獲得するか、自己増殖させるか、あるいは他人から強奪するか、ということになります。
以上、自給自足について見てきましたが、結論としては、自給自足における貨幣的なもの発生の類型は、資産増減の類型を当てはめてみた場合、「③獲得」、及び「⑥自己増殖」の2種類、ということがわかりました。
今回は以上です。次回は、「物々交換」における貨幣的なものについて見てみます。
それでは。
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(補足)
*1 「Ⅱ.【2】貨幣の機能」は、まだ未投稿です。
*2 自給自足で労働力を投入して獲得できる食料は、天候や獲物・食物の生育状態などの要素によりその相対的な量は変動しますが、ここではどのように変動するかは重要ではなく、その時々によるモノ・サービスの相対的な定量化が図れる、という事実に着目しています。
*3 労働力(生命力)の回復には食料摂取と睡眠がありますが、睡眠の為に投入するものは、あえて言うなら「時間」ということになります。ここでは、時間の投入をBSに反映する方法が不明(あるいは、未だ見つけられていない)ですので、睡眠については議論はしません。